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精市と最初に出会ったのは、他ならぬテニススクール。
小学校3年生になったばかりの春のこと。
神の子と会った日
「弦一郎!」
「む、その声は精市か」
ラケットを大事そうに抱えながら男の子がフェンス越しに声をかけてきた。
っ!せ、せいいち・・・だと!?
漢字変換したら「精市」ですか?そうですか?
このテニススクールに入って2年間。
まさか、同じテニススクールだとは知らなかった!!!!(どーん)
「久しぶりだな精市。今までどうしていたのだ?」
「うん、ちょっと家の都合で、小学校にあがってからずっと違う時間帯で通ってたんだ」
「そうだったのか。それで今日はどうしたんだ?」
「弦一郎と久々に試合がしたくてね。・・・ところでその子は?」
弦一郎の後ろにいた私に気づいた幸村が私のことを聞く。
き、気づかなくてよかったのに幸村さん!!
「ああ、お前と入れ違いに通うことになった、透という。透、こやつは幸村だ。会うのは初めてだな」
「へえ、透っていうんだ。俺、幸村精市。よろしくね」
挨拶されて、右手を出される。
こ、これは・・・握手・・・ですか?
「あ・・・笹本透でス。よ、よろしく、幸村くん・・・」
私もそう挨拶をして、幸村と握手する。
気分的にアイドルと握手した気分だ。
あの幸村だ。と思ったら、何だか変に緊張してしまって、上ずった声で挨拶をしてしまった。
そんなガッチガチに緊張した私を見てクスクス笑っている。
こ、子供相手に大人気ない・・・・・・。
しかし、それにしても幸村の何と可愛いことか。
天使がいたら、多分こんな感じだと思うよ・・・!!
「学校の友達?」
「3年程前に、うちの隣に引っ越してきてな」
「ふーん、そうなんだ」
そう言って幸村は私をニコニコしながら眺めてくる。
わ、私そんなに不自然なところありますかね・・・?
「君も、一緒に試合しない?」
「ふぇ?わ、私?」
「うん。俺、君とも試合してみたいな」
か、神の子と試合ですか!?
無理です!私無理です!!
『テニス歴2年、笹本透!よろしく頼むぜ!』
みたいな、青学の某1年生のノリにはさすがになれない。
「ふむ、幸村と試合か。お前もいい経験になると思うぞ。幸村は同年の中では1番上手いからな」
「ほら、弦一郎もこう言ってるしさ。ね?軽く打ち合うだけだから」
そう、2人に言われたら頷くしかない。頷かざるを得ない。
小学生なのに、この有無を言わせないような妙なプレッシャーは何だろう。
「う・・・ちょ、ちょっとだけだよ?」
「うん。やった、楽しみだな」
「うむ。透はなかなか筋がいいぞ」
ヒッ!またハードルをあげるような発言を・・・!!(泣)
まだ幼いとはいえ・・・神の子と試合か・・・
私まだ弦一郎の打球に追いつくのがやっとなのに・・・
「あ・・・私、コート使ってもいいかコーチの先生に聞いてくるね!」
なんだかこの空気の中に居たたまれなくなって、逃げるようにその場を離れた。
うう・・・このまま帰りたい・・・
「ふふ・・・透って可愛い子だね。隅に置けないなあ弦一郎も」
「む?何か言ったか」
「ううん。聞こえてなかったならいいんだ」
「?そうか」
普通にコーチに許可を貰って、先に弦一郎と幸村が試合することになった。
その後に、私と・・・幸村の試合です・・・。
コーチまで、「幸村くんと試合か!彼は強いよー!頑張って!」とガッツポーズで激励をくれた。
(いっそ『試合は駄目だ』って言って欲しかったよ・・・)
「3ゲームマッチでいい?」
「ああ、それでいい」
いつの間にかコートの回りには少なからずギャラリーが集まっている。
弦一郎もこの年齢の割りには上手いから、同じ時間に通っている同年代の子は興味津々だ。
しかも、相手はその弦一郎が『上手い』と称する幸村精市。
少し年上の生徒なんかも集まってきている。
・・・これ終わったあと、私このギャラリーの中でするのかな・・・
嫌な予想が脳内を横切ったが、忘れることにした。
パァンッ!!!
(・・・・・・凄い。なんて無駄のないフォーム・・・)
幸村と弦一郎の接戦。
でもやはり幸村優勢といったところ。
幸村が打つストロークは、まるでコートに吸い寄せられるように決まる。
『・・・ほう、やはり幸村くんは上手いな』
『ああ。しかし真田くんにも天性の才能を感じるよ』
『いや、小学生なのに・・・。これだけハイレベルな試合とは、将来が楽しみだな』
大人達が近くでそんなことを話していた。
私は改めて、テニプリの世界に来てしまったんだなあと思った。
「3-2! 勝者、幸村!」
3ゲームマッチだから、終わるまではそんなに時間はかからなかった。
それまで静まり返っていたコートにわっと歓声があがる。
幸村と弦一郎がネット越しに握手をしているのが見えた。
そのまま、2人は私に向かって歩いてくる。
「どうだった透?」
「・・・凄かった。幸村くんて本当に強いんだね・・・」
「ふふ・・・そんな風に褒められるの、嬉しいな」
「だって本当だもん。私、弦一郎が負けるの初めて見たかも」
「む、俺だって負けたことくらいはそれこそ何十回とあるぞ」
「それに1セットマッチじゃないしね。俺だって負けるときは負けるよ」
そう言いながらタオルで汗を拭く2人。
(・・・あ)
私は試合中に感じた違和感を弦一郎に聞いてみた。
間違いだったらいいんだけど。
「弦一郎」
「なんだ?」
「もしかして、右足痛くなかった?」
弦一郎が怪訝そうな顔をした。
やっぱり間違いだったかな・・・。
「・・・何でそう思った?」
「ん?んー、最後のフォアの踏み込みが、なんか甘かったかな?って・・・。いや、痛くならいいんだけど」
「いや、その通りだ。少し捻った感じがしてな・・・」
「やっぱり?あと・・・幸村くんも、もしかしてだけど右手首に違和感がある?」
そう聞いたら、幸村は軽く驚くような顔をした。
「・・・・・・驚いたな。よく気づいたね。でももう違和感はないよ」
「うん。なんとなくだけどね・・・。あ、処置してもらった方がいいよ」
「・・・そうだね。ありがとう」
「ああ、見て貰うことにしよう」
「うん。じゃあ、休憩挟んだら試合しよっか。よろしく幸村くん。」
それまで準備体操でもしてるね。とそう2人に言って、私はコート脇まで行って軽くストレッチにかかる。
ギャラリーは、2人の試合が終わったことで興味をなくしたのか、大方自分の練習に戻っていった。
『・・・凄い洞察力だね透って。違和感を感じたのは本当に一瞬だけだったんだけど』
『うむ。動作の一瞬の変化を見極めるのがあやつは非常に上手くてな』
『へえ、凄いな』
『ああ。うちの道場でもなかなか筋がいいとお祖父様が言っていた』
『道場って、剣道だっけ?』
『透は剣道も習っていてな』
『それでか・・・』
「?」
なんか目線を感じるので、顔を上げると幸村と目が合った。
瞬間、ひらひらと笑顔で手を振られたので、振り替えしておく。
ああ・・・可愛いなあ・・・(ほやーん)
自分が冷静に分析されてるなんて知る由もない透だった。
「よし、じゃあ試合しようか」
「う・・・お手柔らかに・・・」
「サーブは透からでいいよ」
すっかり体力を回復した幸村がネットを挟んで立っている。
弦一郎とは違う、妙な圧迫感だ。
(なんでこの世界の子供は、変なオーラ発してるんだよ・・・)
念じたところでこの空気の重みは変わらない。
勝負は3ゲームマッチ。
先に3ゲームとった方が勝ちだ。
幸村に勝てるとは思わないけど、精一杯やろうと思った。
スゥ・・・
よし。
1回深く深呼吸をして、試合に気持ちを切り替える。
剣道の試合も、テニスの試合も、この切り替えの儀式が常になっていた。
一連の動作を経て、ボールは幸村のサービスコートへ。
「・・・・・・いい打球だね」
そう言って幸村は難なく私のサーブを打ち返す。
・・・最初からエースとれるなんて思ってませんよ・・・
パコンッ パコンッ パコンッ
・・・・・・・・・
(あ、遊ばれてる・・・・・・!!)
右に、左に、私は幸村の打つストロークに振り回されていた。
やはり多少は手加減をしてくれているのか、ギリギリながらもなんとかラリーは続く。
格上の相手だからしょうがないけど、やはり1ポイントくらいはとりたい。
そんなことを思っている間に、すでにゲームは「2-0」。
2ゲームともラブゲームだ。
そして今現在のスコアは「40-0」。
もう後がない。
「・・・そろそろ終わりにしようか?」
「っ!」
それまでストロークを打っていた幸村の体勢が一瞬変わる。
ボレーだ。
そう瞬間で感じとった私はネットまで駆けた。
ボールにラケットが届く。
「っはぁ!!」
「っ!」
パァンッ!!
という小気味のいい音が響いて、私が打ったボールは幸村の右脇をクロスに抜けた。
「40-15!!」
「ほう」
弦一郎の軽く驚いた声が聞こえた。
「・・・はあ、はあ・・・やったぁ・・・」
「驚いたな・・・そこでパッシングショットがくるとは思わなかった」
ネット越しに幸村がそう微笑む。
「透って、結構負けず嫌い?」
「はあ・・・はあ・・・、そうかも・・・」
私と幸村は互いに微笑む。
息も絶え絶えの私だったけど、3ゲームといわず1セットマッチにすればよかったと思った。
今、最高に楽しいって、そう思ったから。
「3-0! 勝者!幸村!」
結局「3-0」の惨敗。
ポイントがとれたのは最後の1球だけ。
それ以外はすべてストレート負けだ。
「やっぱり、幸村くんは強いね・・・!全然攻めさせてくれないもん・・・!」
「ふふ・・・俺も透がここまでやるなんて思わなかったよ。面白かった」
幸村と握手をする。
今は負けたことよりも、1ポイントでもとれたことがとても嬉しかった。
「まさか透が1ポイントとるとはな。見直したぞ」
「でも、それ以外はラブゲームだよ?」
「俺も油断してた。それなりに手加減はしてたけど、実は1ポイントもとらせる気はなかったからね」
そう言いながら幸村はニコニコと笑顔を向けてくる。
なんだかその笑顔に冷や汗が走る。
「俺、透のこと気に入っちゃったな。また試合しようね。絶対。」
「(絶対!?っていうか名前・・・。あれ?ゲーム中も呼び捨てだったような・・・)うん・・・よろしく幸村くん・・・」
「弦一郎ともね。また試合しよう」
「ああ。次はお前に勝つぞ」
そう言って2人は互いに拳をコツンとやっていた。
なんか、いいよね男の子のこういうところって。
「ところで・・・」
「うん?何?幸村くん」
「それ。『幸村くん』じゃなくて、精市って呼んで欲しいな」
・・・・・・・・・・・・・
ふぇ!?
名前で呼んでいいんですか!?幸村の!?
思わず軽く動揺する。
「え?あ・・・じゃあ、精市くん・・・」
「そうじゃなくて、弦一郎を呼ぶみたいに、俺も『精市』って」
「・・・・・・せ、精市?」
「うん」
おずおずと口に出すと、幸村は満足そうに頷いた。
幸村がにっこりと嬉しそうに笑うので、私もつられて笑顔になる。
それが、幸村との最初の出会い。
「6-1!!勝者!幸村!」
「はぁ・・・はぁ・・・また、負けた・・・はぁ・・・」
コート外に出た途端、私はペタンと力なく座り込んだ。
精市と会ってから3回目の春。
あれから1度も幸村に勝てたことはない。
まあ、Jr,大会優勝者に勝てるとは、到底思っていませんが。
「負けたっていうけど、今日は俺から1ゲームとったじゃない。最初に比べたら凄い進歩だよ透」
「あはは・・・そうだね。あのときは1ポイントでやっとだったから」
あれから精市とは仲良くなって、休日はたまに弦一郎と3人で打ち合う仲になった。
弦一郎はひたすら壁打ちをしている。
「弦一郎、張り切ってるな。気合が入ってる」
「うん。次こそ伊織に勝つんだー!って。毎朝私なんて練習に付き合わされるんだから・・・」
「お疲れ様。『伊織』って、4年のときに弦一郎に勝った女の子の名前だろう?」
「そう、私がアメリカにいた時の友達なの。凄くテニスが強いんだ」
「だろうね。俺も試合してみたいな」
4年の夏休みの間、精市は母方の実家で夏休みを過ごしたらしく、伊織が来たときは会えなかった。
「試合、できると思うよ。伊織こっちに来るから」
「日本に?」
「うん。立海に通うって」
「へえ。じゃあ俺達と一緒だね」
そう精市は愉快そうに笑った。
私も伊織と久しぶりに試合がしたい。
私だって負け越しだ。
借りは返したいのが心情。
「そうか、楽しみだなあ。凄く興味がある」
精市は新しいオモチャを見つけたときの子供みたいに、キラキラした笑顔で言った。
「弦一郎より強いってことは、透より強いわけだ」
「うん・・・まあそうなるね」
「透だって、女子大会で優勝したのにね」
「いや・・・あれは望んで出たわけじゃ・・・」
ふふっと笑う精市。
そうなのだ。
私はテニススクールのインストラクターの口車に乗せられて、気づいたら大会に出場していて。
不本意ながらも、売られたケンカは買うタイプ。
あれよあれよと決勝まで進み、気づいたら優勝カップを貰っていた。
「うあぁ~・・・思い出したら恥ずかしくなってきた・・・あんな、大勢の目の前で・・・カップ落とすし・・・」
「あはは。あれは俺も笑っちゃったな。透って本当に、コートに立ってるときは別人のようだよね」
「そ、そう?私自身はそんなに意識してないけど・・・うーん。そうなのかな?」
「うん。あの射殺すような目線とか。いいよねゾクゾクする」
「は!?ゾ、ゾクゾク!?」
何てこと言い出すんですか幸村さん!?
初めて言われたわそんなこと!!!
っていうか、私そんな殺すような目線投げかけてたんですか・・・!?
やばい・・・今度から気をつけよう・・・
本気なのか冗談なのかわからない精市の発言に心底動揺する。
(・・・この人からかうの好きだよな・・・・・・・)
小学生相手に翻弄されてる自分が何だか情けなかった。
それから、一週間後。
『もしもし、精市か?』
『ああ弦一郎。どうしたの?』
『明日、伊織と試合するぞ』
『!・・・・・・例の女の子だね』
『うむ。面白い試合になるだろうから、お前も是非来い』
『うん。楽しみにしてるよ』
そんな電話が幸村家にかけられた。
―――――― 物語の歯車は、まだ動き出したばかり。
【終】
長いー!!!!!orz
なんかいつの間にかこんなに長くなっちゃったよwwwww
感想求む!!(●´∀`●)
バシッ!
バサッ
鈍い音と共に白い旗があがる。
今日の勝負は私の勝ちだ。
25,5話
「プハッ!」
面をとって、濡れた手ぬぐいで顔を拭く。
春先の少し冷たい風が、火照った頬に心地よい。
「今日はいつになく気合が入ったいい胴打ちじゃったぞ」
「本当ですか!?ありがとうございます師範!」
「随分上手くなったもんじゃ。なあ弦一郎」
「ええ。今日は気合十分だな透」
師範、もとい弦一郎のお祖父ちゃんは目を細めながら笑う。
今日はいつになく綺麗に胴打ちが決まって、とても気分がいい。
精神が澄み切っているような感じだ。
入学式が終わって、ちょっと安心したからかな?
天気もいいし、弦一郎にも珍しく勝てたし、とにかく今日は絶好調だ。
「最初わしの元に来た頃は、危なっかしい子供が来たものだと思ったが。なかなかどうして、いい剣士になった。さすがわしの孫娘じゃて」
はっはっは。と笑う師範。
この剣道道場に来ている子供は、みんなこの師範の孫同然として扱われる。
弦一郎の祖父がやっているだけに、厳しい道場だ。
厳しい訓練を共にしたもの、その連帯感ははかりしれないものがある。
まあ・・・その仲間がいればの話だが。
昔は同じ年頃の子供が何人かいた気がするが、あまりの厳しい稽古なために一人、また一人といなくなってしまって。
まあ、つまり習ってる子供は弦一郎と弦一郎のお兄ちゃんと私だけだったり・・・
お祖父ちゃん厳しすぎるんだよ~・・・
あとは、もっと年上の人しか通いにこない。
土曜日のこんな真昼間。
道場には私と弦一郎しかいない。まあいつものことだ。
「では、いつもの通り座禅を組んで終わろうかの」
「「はい」」
静かに目を閉じる。
聞こえるのは木々のざわめきと鳥の囀り、鹿威しのカコンという音だけ。
剣道は精神面を鍛えるのに向いている。
やっていて実感する。
剣道もテニスも、どこかしら通じるものがある。
竹刀を相手に入れる。
この一瞬の緊張感。
テニスでポイントをとる時とひどく酷似している。
(・・・弦一郎のこの精神面の強さ・・・・・・剣道あってのものだと思うな・・・)
攻める気持ちと守る気持ち。
「攻防一致」という剣道の教え。
それはやはりテニスにも通ずる。
このどこまでもストイックな精神は、弦一郎そのものだ。
「やめ」
スッと目を開く。
静かだ。
心が湖面のように落ち着いている。
(・・・・・・私この世界に来てからの方が人間として充実してるわ・・・)
何だか今になって物凄く実感した。
いつもの日常では素の自分が出てしまうが、この道場、この姿勢、凛とした空気の中にいると、自分が自分でなくなる気がする。
テニスのコートに立っているときと同じだ。
この道場にいるときやコートに立っているときは、転んだりしないんだ。
体の細胞が、相手の動きや、竹刀やボールにしか反応しなくなるっていうか。
心も冷静になれる。
このままいくといつか自分は仙人とかになれるんじゃないだろかなんて、そんな錯覚さえ覚えてしまう。
いつもこうだといいんだけど。
でもいつもこうだったら本当に弦一郎の女バージョンになるので、想像だけに留めておく。
弦一郎はテニスでも剣道でも、攻めの姿勢だと思う。
対して、私は受けの姿勢。
弦一郎が「動」で、私が「静」。
弦一郎のプレイは剣道でもテニスでも、いつもの彼より饒舌な試合になる。
激情型なのだ。まるで噴火する火山みたいに。
対する私は、それに反して冷静極まりなくなる。
心が水のように穏やかになる。
だから私は、試合をしているときと、普段の雰囲気とがまるで違う。と言われる。
(・・・たしか精市が最初にそう言ったかな・・・・・・)
でも、試合が終わった後に握手するともう戻っちゃうんだけどね。
だから気が抜けてしまって、試合後の方がよく足元ふらついていたりして、それで精市によく笑われるんだ。
「では、これで今日の稽古は終わりにする。礼!!」
「「ありがとうございました!」」
礼に始まり、礼に終わる。
剣道は礼儀のスポーツだ。
剣道は「剣」の「道」であり、その道には終わりがない。
つまり、ひたすらに修行なのだ。
ああなんてストイック。
心まで筋肉質ですよ私達。
だから「筋肉夫婦」とか言われるんだよ。
でもどっちかといえば「筋肉姉弟」だと思う。年齢的に。
そんなことを悶々と考えていたら、真田家の美人母が昼食を持ってきてくれた。
「ご飯ですよー!!」
「はーい!」
私も弦一郎も、戸口まで昼食を取りにいく。
今日はおにぎりとナメコの味噌汁とお漬物が少々。
いつもご馳走様です。といって受け取ると、
いいのよ、透ちゃんは私の娘みたいなもんなんだから。と返された。
ああ~いい匂いだ~・・・
思わずお腹がぐうと鳴る。
「弦一郎、今日天気いいから縁側で食べない?」
「うむ。それはいい案だな」
私達はお盆を持って、縁側で腰を下ろす。
絶好の小春日和。
ウグイスまで鳴いたくらいにして、本当に今日はいい日和。
「「いただきます!」」
パク
「ん~・・・美味しい~!」
ご飯も美味しいし、いい天気だし、弦一郎にも勝てたし。
今日はもう最高!!!
「稽古した後って、いつもより数倍はご飯が美味しいよね!」
「うむ、美味い」
「幸せ~」
「お前はいつも美味そうに飯を食うな」
「だって小母さんのご飯美味しいもん」
そんな2人を後ろから微笑ましく見る真田家2人。
「本当に仲睦まじいのう」
「ええ本当に。透ちゃん、弦一郎のお嫁さんになってくれないかしら」
「うむ。透ちゃんが弦一郎の嫁になってくれたらわしとしても言うこと無しじゃ」
「弦一郎ったら、あんなに嬉しそうな顔しちゃって」
「やはり和子さんにもそう見えるか」
「ええ。透ちゃんと話しているときはいつもより幾分か年相応の顔をしますわ」
「ふむ。良い伴侶を見つけてよかったのう弦一郎よ。・・・ところで和子さん、わしの昼食はあるかの?」
「ええ、ありますよ。はいどうぞ」
「わしの孫娘」とか「私の娘」とかいう揶揄は彼らの中では半分以上は本気である。
大人2人がそんなことを話しているとは知らない弦一郎と透は、もくもくとご飯を咀嚼していた。
すでに真田母と祖父の中で弦一郎の未来の嫁になっているとは、これっぽっちも知らない透であった。
「ん~美味しい~!」
【終】
剣道わかりません(笑)
でも楽しかったwwwwwww
嫁www筋肉嫁ww たるんどる^▽^
23,5話
「お前は部活動はどうするんだ?」
弦一郎にそう質問されて、うーんと唸る私。
「どうした?何か迷っているのか?」
「うん。テニスか剣道かで。弦一郎はテニス?」
「無論」
「そうだよねえ…テニス部って名門だしね。やっぱり私もテニスかなあ…」
過去14年間全国大会出場という輝かしい記録がある立海大附属。
テニスをしている者としては最高の環境。
女テニだって強い。
立海に入ったからにはテニス部に入らなければ何だかもったいない気もした。
「うむ。剣道はお祖父様にいつでも見てもらえるしな」
「そうだね。…そういえば弦一郎ってクラス何組?」
「Gだ」
「へえーGなんだ……ってG?」
「ああ」
Gって…えーと…
ABCDEFG……
はあ…何とも遠いところからはるばる…
自分のクラスから近い階段を使えばもっと早く帰れただろうに。
わざわざ迎えに来てくれたことが何だか嬉しかった。
弦一郎は何とも優しいお子だよ・・・オバさん感激(ホロリ)
そんな会話をしながら玄関で靴を履き替えて、はたと気付いた。
(あ、伊織・・・)
式の席で前にはいなかったので、きっとBより後ろのクラスだろうと思う。
B以降のクラスならば、来るときに弦一郎は声をかけなかったのだろうか。
「伊織は?」
「伊織ならCクラスにいたぞ。来るときにまだホームルームをしていたのでな」
「そっか、じゃあ外で待ってたらそのうち来るよね」
「そういえば精市もCクラスのようだったぞ」
………
そうか・・・精市と一緒なのか。そうか。
何となく心の中で合掌しておいた。
伊織が来るまでの間、弦一郎の提案でテニスコートの見学に行く。
入学式の日はさすがに休みなのか、コートの中はガランとしていた。
「立派なコート……」
「うむ。さすが立海大附属。といったところだな」
弦一郎は満足そうに腕を組んでコートを眺める。
このコートから、後のビッグ3、2年生エース、詐欺師、紳士、スペシャリスト、守護神が生まれ育つのか・・・
そう考えたら、途端に鳥肌が立ってきた。
…見てみたい。凄く。
そう思った。
彼らが生まれる様を、育つ様を。
間近で見たいと、そして彼らを手助けしたいと、そのとき強く思った。
「私、マネージャーやる」
ふいに口を突いて出た。
急に口を開いた私に弦一郎はこちらを見る。
以外。といった顔をしていた。
私は、このコートを見るまでは女子テニス部に入ろうかと思っていた。
きっと弦一郎も、私は女テニに入るものと思っていただろう。
でも、このコートを見て思ったんだ。
「弦一郎、私テニス部のマネージャーやりたい」
「男子テニス部のか?」
「うん」
「女テニじゃなくていいのか?お前は選手としての素質もあるだろうに」
「うん」
「そうか・・・お前がそう決めたんだ。お前の好きにやったらいい」
「うん・・・頑張る」
小さくガッツポーズをすると、弦一郎も満足気に頷いてくれた。
早速、帰りにテーピングの本でも買って帰ろうかな!!
そう意気込んでいると、
「透――――――――――!!!」
「ぅわあ!」
伊織の声が聞こえたと思ったら、背中と腰に鈍い衝撃を受ける。
め、めっちゃ痛い・・・。
「!伊織ではないか。女子たるものスカートで走るでない!はしたないぞ!」
「やー!透、透ー!」
「おお?どうした伊織」
「ぅぅぅう……ゆっきが恐い、恐いー…」
・・・・・・
腰を擦りながら、振り向くとニコやかな笑顔で精市が歩いてきた。
伊織は息が切れてるようなのに、精市はむしろ晴れやか。
わーい。今日も美人だね精市ー。(棒読み)
そうか。伊織さんはあれから逃げてきたんですね。よしよし。
伊織は私にしがみついたまま、精市を睨み付けている。
擬音語にすると、「フ―――ッ!!!」って感じ。
「…威嚇?」
「伊織、野生の小動物に見えるよ」
弦一郎は未だにこの状況についていけないらしく、微妙な顔をしていた。
うん、気持ちはわかる。
「それにしても、どうしたの?何かあったの?」
伊織にそう聞くと、伊織は私の背中に顔を埋めながら聞いてきた。
「…透は知ってた?」
「何を」
「……部活動必須って」
「そりゃ、知ってたよ」
「………」
「………伊織知らなかったの?」
伊織はブンブンと首を縦に振る。
そのまま頭降るなよ。背中が痛いよ。
どうせ伊織のことだから、帰宅部で優雅な学生生活を送ろうと考えていたに違いない。
ふ。甘いな。
ピン!
私はとてもいいことを思いついた。
2人でやれば、絶対楽しいと思うんだ。
「伊織!」
「何?」
「私と一緒にテn「嫌だ」
言い切る前に伊織が全力で切り捨てた。
「最後まで言わせなさい」
「……わかった、最後まで言いなよ」
「私と一緒にテニス部に入ろう!」
伊織に何とも言えない嫌そうな顔をされた。
そんな嫌そうな顔するんじゃないよ。
「…………女テニ?」
「ううん、男テニのマネージャー!」
そう笑顔で言ったら。
「断固拒否する!」
笑顔で拒否られた。
「いいじゃん!何でダメなの!?」
「面倒臭い!」
「大丈夫だよ!伊織なら!!」
「面倒臭い!」
何を言っても面倒臭い。と拒否する伊織。
くそ・・・こうなったら強行手段だ!!
▼透 の こうげき!
「私もいるし、精市もいるし、弦一郎もいるよ!」
「…ぅう……でも」
▼伊織 が 揺らいでいる(よし、あともうちょっと・・・)
▼透 の 必殺!
「赤也もいるよ(ボソッ)」
「………!」
▼伊織 が これ 以上 なく 揺らいでいる
(ふっ・・・伊織が前世で赤也のファンだったことは知っているのだよ!そして・・・)
▼透 の こうげき!
「仁王もいるよ!(ボソッ)」
「入る!」
「えー!?おまっ!」
▼伊織 を 倒 した !
▼透 は 伊織 を 仲間にした!
(即答かよ!!!!!!)
私は脳内で某モンスターをゲットしたときのテーマを聞きながら盛大につっこんだ。
(くっ・・・何か釈然としないけど、マネージャー仲間ゲットだぜ!!!)
1人でやるよりは2人のほうがいい。
私は俄然やる気が湧いてきた。
「一緒に頑張ろうね!」
「おーう」
「やる気が見られんぞ!」
「いいんだよこれが私なんだから!」
早速土日に一緒に申請書を書こうじゃないか!
月曜日が楽しみだ!
うふふふ。
・・・・・・・・
そういえば、男子テニス部のマネってそんな簡単になれるのか?
人気高そう・・・。
私は早くも一抹の不安を覚えた。
【終】
1年生時
1-A
1-B 透・仁王・柳生
1-C 伊織・幸村
1-D
1-E ジャッカル
1-F
1-G 真田・柳
1-H 丸井
1-I
そういえば、体育祭とかどうなるんだろうね?
流石に9団も無理だろうし、3ずつに分けるのかな?
(ADG)(BEH)(CFI)とか?そうなるとBEHが濃いな。
丸井はIでもいいかも。
2年生時
2-A 伊織・柳生
2-B 仁王
2-C
2-D 幸村
2-E 真田
2-F 透・柳
2-G ジャッカル・丸井
2-H
2-I
1-C 赤也
3年生時
3-A 真田・柳生
3-B 仁王・丸井・伊織
3-C 幸村・透
3-D
3-E
3-F 柳
3-G
3-H
3-I ジャッカル
2-D 赤也
伊織とも、弦一郎とも、精市とも、クラスが離れちゃった。
うん。まあ、別にそういうこともあるだろうけど。
22,5話
(おおー・・・これが新しい学び舎の教室ですか・・・)
うん、普通。
大して感慨深い思いを抱くことなく、教室に入る。
だって・・・人生2回目だし。
最初に外観を見たときは、「これから立海の生徒になるんだー・・・」っていう感動で胸がいっぱいだったけど、
教室が、あまりに「これぞ教室!」って感じで(そりゃそうだ)なんだかちょっと拍子抜けしてしまった。
(・・・まあこれが氷帝だったら違うのかもだけど)
私の教室は1-B。
なんと教室はⅠクラスまで。多っ!!
私は無駄に広い校舎のわけを知った気がした。
教室を見やると、何だかイス取りゲームのようになっていた。
なんでも好きに座席を決めていいらしく、やはり後ろ側の席や窓側の席中心に埋まっている。
私も例に漏れず後ろの座席を・・・・・・
スルーして、真ん中あたりの1番前の席に鞄を置いた。
物好きな・・・という目線が四方八方から飛んでくる。
ふっ・・・甘いな!真ん中の1番前の席こそ当たり席というモノ!
先生の声だって聞き漏らさないぞ!勉強だって集中できるんだぞ!
まさにお得!!学費払ってる分、知識を吸収したるわ!!
なんて、普通の中学生にはおよそ有り得ない考えを持って席に着く。
少し目が悪いというのと、人の頭で黒板が見えなかったりすることが嫌い。ということもあるが、弦一郎に感化されている気がしてならない。
(・・・・・・私はいつからこのような真面目っ子に・・・)
弦一郎の女バージョンとして、日々逞しく育っていく未来の私を想像したが、頭を振ってかき消した。
(有り得ん・・・実にくだらん妄想だ透よ・・・というか有ってたまるか!違う意味でたまらんわ!)
自分をそう叱咤するが、すでに弦一郎口調になっている私はもう駄目かもしれなかった。
「すみません、隣よろしいですか?」
「えっ!?あ、はいっ・・・・・・・・・」
一人で葛藤していた私に誰かが声をかける。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・私の顔に何かついてますか?」
「い、いえ!なんでもないです!!」
(いかん!!フリーズしてしまった・・・!!なんという失態!!)
突如話しかけてきた人物の容姿をしげしげと眺める。
優雅な物腰で鞄を机横にかける「彼」。
栗色の髪の毛、キチっとしめたネクタイ、丁寧な言葉使い。
そして・・・、逆光メガネ。
や、ややややややや柳生!!??まさか柳生比呂士とかいいますか!?
かろうじてポーカーフェイスを保ててはいるものの、内心動揺しすぎて表面を取り繕う余裕がない。
気を抜いたら、ニヤニヤしてしまいそうだ。
(だ、駄目だ透!ここでニヤけたら、「不審人物」のレッテルを貼られてしまう・・・!耐えろ私!)
そんな心の中を知らない柳生(だと推定)は、私に朗らかに声をかける。
なんとなくまだ幼い声が可愛いいいいいいいいい!!!!(もう不審者)
「貴女は・・・勉強への意欲が旺盛なのですね」
「え?ああ・・・この席のこと?」
「はい。進んでこの席に着席していたものですから。素晴らしい志だと思いますよ」
「あはは、ありがとう。そういうあなたもそうだと思うな」
「ふふ・・・そうですか?」
そう言って彼は微笑む。
うわ・・・なんて爽やかな笑顔なんだろ・・・。精市とはまた違う爽やかさだよ・・・
あまりの眩しさに座ってるのに立ち眩みがしそうだった。
わ、若さって眩しい・・・!!(おい)
「そういえば、申し遅れました。私は柳生比呂士と申します。名も名乗らずに、すいませんでした」
「いえ!と、とんでもごさいませン!」
思わずこっちも敬語になる。
なんという紳士・・・!!これが噂に聞く柳生か・・・!!とても中学生とは思えん言葉遣いだ・・・
自分の幼馴染もとても中学生とは思えない言葉遣いというのはこの際無視する。
「・・・と、私も自己紹介しないと・・・!えーと、笹本透といいます。よろしく柳生くん」
「笹本さん、ですね。こちらこそよろしくお願いします」
柳生があまりに丁寧に頭を下げるので、私も慌てて頭を下げた。
ど、どっちが年上かわからん・・・
「よーし、みんな席に着けー」
そんなことを話している間に担任の先生がやってきた。
そこで一旦、会話がストップする。
まわりもガタガタと席に着く。
諸注意を話し始めた先生。名前は安部。
なんだかやる気がみなぎってる先生だ。
見た感じ30代前半?どちらかというと体育会系な感じがする。
まあ体育会系でも弦一郎で慣れてるからいいや(酷い)
「じゃあ、最後に一つ。部活動は必須だからな。立海に入ったからには文武両道に励むこと。来週末までには入部届けを顧問の先生に提出するのを忘れないようにな」
そう言って、入部希望の用紙を配布される。
解散の号が出たので、すぐに教室が騒がしくなる。
(部活かー・・・。順当に言ってテニスか剣道かなあ・・・)
柳生にも声をかけてみる。
「柳生くんは、部活どうするの?」
「私はゴルフ部に入る予定です」
「ゴルフ部?」
「はい」
あれー?テニス部じゃなくて?
私は無い頭をフル回転させる。
そういえば、元々ゴルフ部だったっていうのをどこかで読んだような・・・
「ゴルフかー・・・紳士のスポーツだね。なんか柳生くんに似合うね」
「ありがとうございます。笹本さんはどこの部活をご検討ですか?」
「うーん・・・テニス部か剣道部・・・かな?」
「なるほど、どちらかで迷ってらっしゃるんですね。・・・・・・お好きに呼んでいただいて構いませんよ」
「うん。どっちかといえばテニスかなって思ってるんだけどね。そう?私も好きに呼んでいいよ」
「そうですか。それでは透さん、とお呼びいたしましょう」
「うん。じゃあ私は柳生って呼ぶね」
そう2人で微笑みあう。
ああ、何か話しやすい・・・。凄く親しみを感じる・・・。
何だろう、今までにないくらい和むよ柳生・・・。
どうしても前世の影響で「柳生くん」じゃなくて「柳生」って呼び捨てで呼びたかったんだよ!
私は紳士から溢れ出るマイナスイオンを余すことなく満喫した。
「透。帰るぞ」
「あれ、弦一郎迎えに来てくれたの?」
見ると扉に弦一郎が立っていた。
律儀に私を迎えに来たらしい。
「お知り合いですか?」
「うん。幼馴染なんだー。じゃ、またね柳生」
「ええ。ごきげんよう」
手早く準備をして、私は弦一郎と共に教室を後にした。
「ごきげんよう」だって!!可愛い!!
「・・・・・・笹本さんて、本当真田にベッタベタだよねー」
「わかるー。っていうか真田も笹本さんに甘いっていうの?」
「だよね。さすが夫婦って言われるだけあるっていうか」
「『筋肉夫婦』ね。笑えるー!!」
「今メール来たけど、真田ってクラスGなんだって」
「G!?ここBなんですけど!」
「そんなに妻が気になるか!」
「あの子も変わってるよねー。真田とよく一緒にいられるっていうかー」
「あー・・・真田といると息詰まりそうだしねー」
そんな会話が2人が去った後に後ろの方から聞こえた。
きっと小学校が同じだった子達なんだろう。
それにしても、会話に品がない。
(先程の彼は、真田くんとおっしゃるのですか・・・)
先程、目が合ったときに軽く目でお辞儀をされた。
なんだか武士のような雰囲気を思わせる会釈だった。
なるほど、武士の夫に三歩下がってついて行く妻。といったような感じでしょうか・・・?
では「筋肉」とはいったい・・・。
隣の席になった彼女を思い出す。
清楚な感じの可愛らしい人。ふわっと花が咲くような笑顔。
外見は年相応なのに、雰囲気が落ち着いていた印象を受けた。
初対面なのに、あまりに違和感なく話せることに少し驚いたことを思い出す。
(そういえば、彼女は私の言葉遣いにも疑問を抱くことなく話をしていましたね・・・)
珍しい・・・。まあ、いいのですが。
そんなことを思いながら、廊下に出る。
「にゃ――――――!!透―――――!!!」
「逃げないでよ!!」
廊下を歩き出した瞬間、凄まじい音をたてて後ろのCクラスから見知らぬ2人が走ってきたと思うと、Bクラスの中を確認して、「どこ行ったんだよおおおおおお」という言葉を残して、また風のように去っていった。
私はしばし呆気にとられたが、すぐに正気を取り戻す。
ハッ!!ろ、廊下を走ってはいけません!!!
走っていった2人を思い、風紀委員にでもなろうかと思った瞬間、1人が叫んでいた言葉を思い出す。
(・・・先程の彼女は透といいましたか?)
『透』と聞いて思い出されるのは隣の席のクラスメイト。
透さんの知り合いなのだろうか。
それにしてはタイプが正反対な気もしますが・・・。
2人が走っていった方向を見る。すでに姿形も見えない。
(・・・月曜に彼女に会ったら聞いてみましょうかね)
ふふ・・・少し愉快になってきました。
月曜が楽しみですね。
ゆっくりと柳生は玄関に向かって歩き出した。
後に、今日初めて会った4人と深く関わることになるとは、そのときの柳生には想像もつかないことだった。
そして、実は今日会っていたのが5人だったということも。
「今の嵐みたいなんは、一体何だったんかのう・・・」
【完】
23.5に続くよ!!
っていうかこういうときは「続」の方がいいのかな。