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20090124設置
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精市と最初に出会ったのは、他ならぬテニススクール。
小学校3年生になったばかりの春のこと。






神の子と会った日






「弦一郎!」
「む、その声は精市か」

ラケットを大事そうに抱えながら男の子がフェンス越しに声をかけてきた。


っ!せ、せいいち・・・だと!?
漢字変換したら「精市」ですか?そうですか?


このテニススクールに入って2年間。
まさか、同じテニススクールだとは知らなかった!!!!(どーん)



「久しぶりだな精市。今までどうしていたのだ?」
「うん、ちょっと家の都合で、小学校にあがってからずっと違う時間帯で通ってたんだ」
「そうだったのか。それで今日はどうしたんだ?」
「弦一郎と久々に試合がしたくてね。・・・ところでその子は?」

弦一郎の後ろにいた私に気づいた幸村が私のことを聞く。
き、気づかなくてよかったのに幸村さん!!


「ああ、お前と入れ違いに通うことになった、透という。透、こやつは幸村だ。会うのは初めてだな」
「へえ、透っていうんだ。俺、幸村精市。よろしくね」

挨拶されて、右手を出される。
こ、これは・・・握手・・・ですか?

「あ・・・笹本透でス。よ、よろしく、幸村くん・・・」


私もそう挨拶をして、幸村と握手する。
気分的にアイドルと握手した気分だ。
あの幸村だ。と思ったら、何だか変に緊張してしまって、上ずった声で挨拶をしてしまった。
そんなガッチガチに緊張した私を見てクスクス笑っている。
こ、子供相手に大人気ない・・・・・・。


しかし、それにしても幸村の何と可愛いことか。
天使がいたら、多分こんな感じだと思うよ・・・!!


「学校の友達?」
「3年程前に、うちの隣に引っ越してきてな」
「ふーん、そうなんだ」

そう言って幸村は私をニコニコしながら眺めてくる。
わ、私そんなに不自然なところありますかね・・・?


「君も、一緒に試合しない?」
「ふぇ?わ、私?」
「うん。俺、君とも試合してみたいな」


か、神の子と試合ですか!?
無理です!私無理です!!

『テニス歴2年、笹本透!よろしく頼むぜ!』
みたいな、青学の某1年生のノリにはさすがになれない。



「ふむ、幸村と試合か。お前もいい経験になると思うぞ。幸村は同年の中では1番上手いからな」
「ほら、弦一郎もこう言ってるしさ。ね?軽く打ち合うだけだから」
 
そう、2人に言われたら頷くしかない。頷かざるを得ない。
小学生なのに、この有無を言わせないような妙なプレッシャーは何だろう。


「う・・・ちょ、ちょっとだけだよ?」
「うん。やった、楽しみだな」
「うむ。透はなかなか筋がいいぞ」


ヒッ!またハードルをあげるような発言を・・・!!(泣)


まだ幼いとはいえ・・・神の子と試合か・・・
私まだ弦一郎の打球に追いつくのがやっとなのに・・・


「あ・・・私、コート使ってもいいかコーチの先生に聞いてくるね!」

なんだかこの空気の中に居たたまれなくなって、逃げるようにその場を離れた。
うう・・・このまま帰りたい・・・


「ふふ・・・透って可愛い子だね。隅に置けないなあ弦一郎も」
「む?何か言ったか」
「ううん。聞こえてなかったならいいんだ」
「?そうか」






普通にコーチに許可を貰って、先に弦一郎と幸村が試合することになった。
その後に、私と・・・幸村の試合です・・・。
コーチまで、「幸村くんと試合か!彼は強いよー!頑張って!」とガッツポーズで激励をくれた。
(いっそ『試合は駄目だ』って言って欲しかったよ・・・)




「3ゲームマッチでいい?」
「ああ、それでいい」


いつの間にかコートの回りには少なからずギャラリーが集まっている。
弦一郎もこの年齢の割りには上手いから、同じ時間に通っている同年代の子は興味津々だ。
しかも、相手はその弦一郎が『上手い』と称する幸村精市。
少し年上の生徒なんかも集まってきている。

・・・これ終わったあと、私このギャラリーの中でするのかな・・・

嫌な予想が脳内を横切ったが、忘れることにした。



 



パァンッ!!!



(・・・・・・凄い。なんて無駄のないフォーム・・・)



幸村と弦一郎の接戦。
でもやはり幸村優勢といったところ。

幸村が打つストロークは、まるでコートに吸い寄せられるように決まる。



『・・・ほう、やはり幸村くんは上手いな』
『ああ。しかし真田くんにも天性の才能を感じるよ』
『いや、小学生なのに・・・。これだけハイレベルな試合とは、将来が楽しみだな』

大人達が近くでそんなことを話していた。
私は改めて、テニプリの世界に来てしまったんだなあと思った。





「3-2! 勝者、幸村!」


3ゲームマッチだから、終わるまではそんなに時間はかからなかった。
それまで静まり返っていたコートにわっと歓声があがる。
幸村と弦一郎がネット越しに握手をしているのが見えた。
そのまま、2人は私に向かって歩いてくる。


「どうだった透?」
「・・・凄かった。幸村くんて本当に強いんだね・・・」
「ふふ・・・そんな風に褒められるの、嬉しいな」
「だって本当だもん。私、弦一郎が負けるの初めて見たかも」
「む、俺だって負けたことくらいはそれこそ何十回とあるぞ」
「それに1セットマッチじゃないしね。俺だって負けるときは負けるよ」

そう言いながらタオルで汗を拭く2人。

(・・・あ)

私は試合中に感じた違和感を弦一郎に聞いてみた。
間違いだったらいいんだけど。


「弦一郎」
「なんだ?」
「もしかして、右足痛くなかった?」

弦一郎が怪訝そうな顔をした。
やっぱり間違いだったかな・・・。


「・・・何でそう思った?」
「ん?んー、最後のフォアの踏み込みが、なんか甘かったかな?って・・・。いや、痛くならいいんだけど」
「いや、その通りだ。少し捻った感じがしてな・・・」
「やっぱり?あと・・・幸村くんも、もしかしてだけど右手首に違和感がある?」

そう聞いたら、幸村は軽く驚くような顔をした。


「・・・・・・驚いたな。よく気づいたね。でももう違和感はないよ」
「うん。なんとなくだけどね・・・。あ、処置してもらった方がいいよ」
「・・・そうだね。ありがとう」
「ああ、見て貰うことにしよう」
「うん。じゃあ、休憩挟んだら試合しよっか。よろしく幸村くん。」


それまで準備体操でもしてるね。とそう2人に言って、私はコート脇まで行って軽くストレッチにかかる。
ギャラリーは、2人の試合が終わったことで興味をなくしたのか、大方自分の練習に戻っていった。



『・・・凄い洞察力だね透って。違和感を感じたのは本当に一瞬だけだったんだけど』
『うむ。動作の一瞬の変化を見極めるのがあやつは非常に上手くてな』
『へえ、凄いな』
『ああ。うちの道場でもなかなか筋がいいとお祖父様が言っていた』
『道場って、剣道だっけ?』
『透は剣道も習っていてな』
『それでか・・・』



「?」

なんか目線を感じるので、顔を上げると幸村と目が合った。
瞬間、ひらひらと笑顔で手を振られたので、振り替えしておく。

ああ・・・可愛いなあ・・・(ほやーん)


自分が冷静に分析されてるなんて知る由もない透だった。









「よし、じゃあ試合しようか」
「う・・・お手柔らかに・・・」
「サーブは透からでいいよ」


すっかり体力を回復した幸村がネットを挟んで立っている。
弦一郎とは違う、妙な圧迫感だ。

(なんでこの世界の子供は、変なオーラ発してるんだよ・・・)

念じたところでこの空気の重みは変わらない。
勝負は3ゲームマッチ。
先に3ゲームとった方が勝ちだ。
幸村に勝てるとは思わないけど、精一杯やろうと思った。





スゥ・・・

よし。


1回深く深呼吸をして、試合に気持ちを切り替える。
剣道の試合も、テニスの試合も、この切り替えの儀式が常になっていた。


一連の動作を経て、ボールは幸村のサービスコートへ。


「・・・・・・いい打球だね」


そう言って幸村は難なく私のサーブを打ち返す。
・・・最初からエースとれるなんて思ってませんよ・・・


パコンッ  パコンッ  パコンッ


・・・・・・・・・

(あ、遊ばれてる・・・・・・!!)



右に、左に、私は幸村の打つストロークに振り回されていた。
やはり多少は手加減をしてくれているのか、ギリギリながらもなんとかラリーは続く。

格上の相手だからしょうがないけど、やはり1ポイントくらいはとりたい。

そんなことを思っている間に、すでにゲームは「2-0」。
2ゲームともラブゲームだ。
そして今現在のスコアは「40-0」。

もう後がない。



「・・・そろそろ終わりにしようか?」
「っ!」


それまでストロークを打っていた幸村の体勢が一瞬変わる。


ボレーだ。




そう瞬間で感じとった私はネットまで駆けた。

ボールにラケットが届く。




「っはぁ!!」

「っ!」



パァンッ!!
という小気味のいい音が響いて、私が打ったボールは幸村の右脇をクロスに抜けた。



「40-15!!」



「ほう」

弦一郎の軽く驚いた声が聞こえた。


「・・・はあ、はあ・・・やったぁ・・・」
「驚いたな・・・そこでパッシングショットがくるとは思わなかった」


ネット越しに幸村がそう微笑む。


「透って、結構負けず嫌い?」
「はあ・・・はあ・・・、そうかも・・・」


私と幸村は互いに微笑む。
息も絶え絶えの私だったけど、3ゲームといわず1セットマッチにすればよかったと思った。
今、最高に楽しいって、そう思ったから。





「3-0! 勝者!幸村!」


結局「3-0」の惨敗。
ポイントがとれたのは最後の1球だけ。
それ以外はすべてストレート負けだ。


「やっぱり、幸村くんは強いね・・・!全然攻めさせてくれないもん・・・!」
「ふふ・・・俺も透がここまでやるなんて思わなかったよ。面白かった」


幸村と握手をする。
今は負けたことよりも、1ポイントでもとれたことがとても嬉しかった。


「まさか透が1ポイントとるとはな。見直したぞ」
「でも、それ以外はラブゲームだよ?」
「俺も油断してた。それなりに手加減はしてたけど、実は1ポイントもとらせる気はなかったからね」


そう言いながら幸村はニコニコと笑顔を向けてくる。
なんだかその笑顔に冷や汗が走る。


「俺、透のこと気に入っちゃったな。また試合しようね。絶対。」
「(絶対!?っていうか名前・・・。あれ?ゲーム中も呼び捨てだったような・・・)うん・・・よろしく幸村くん・・・」
「弦一郎ともね。また試合しよう」
「ああ。次はお前に勝つぞ」


そう言って2人は互いに拳をコツンとやっていた。
なんか、いいよね男の子のこういうところって。


「ところで・・・」
「うん?何?幸村くん」
「それ。『幸村くん』じゃなくて、精市って呼んで欲しいな」

・・・・・・・・・・・・・

ふぇ!?
名前で呼んでいいんですか!?幸村の!?

思わず軽く動揺する。


「え?あ・・・じゃあ、精市くん・・・」
「そうじゃなくて、弦一郎を呼ぶみたいに、俺も『精市』って」
「・・・・・・せ、精市?」
「うん」


おずおずと口に出すと、幸村は満足そうに頷いた。
幸村がにっこりと嬉しそうに笑うので、私もつられて笑顔になる。


それが、幸村との最初の出会い。









「6-1!!勝者!幸村!」



「はぁ・・・はぁ・・・また、負けた・・・はぁ・・・」


コート外に出た途端、私はペタンと力なく座り込んだ。
精市と会ってから3回目の春。
あれから1度も幸村に勝てたことはない。
まあ、Jr,大会優勝者に勝てるとは、到底思っていませんが。



「負けたっていうけど、今日は俺から1ゲームとったじゃない。最初に比べたら凄い進歩だよ透」
「あはは・・・そうだね。あのときは1ポイントでやっとだったから」


あれから精市とは仲良くなって、休日はたまに弦一郎と3人で打ち合う仲になった。
弦一郎はひたすら壁打ちをしている。


「弦一郎、張り切ってるな。気合が入ってる」
「うん。次こそ伊織に勝つんだー!って。毎朝私なんて練習に付き合わされるんだから・・・」
「お疲れ様。『伊織』って、4年のときに弦一郎に勝った女の子の名前だろう?」
「そう、私がアメリカにいた時の友達なの。凄くテニスが強いんだ」
「だろうね。俺も試合してみたいな」

4年の夏休みの間、精市は母方の実家で夏休みを過ごしたらしく、伊織が来たときは会えなかった。


「試合、できると思うよ。伊織こっちに来るから」
「日本に?」
「うん。立海に通うって」
「へえ。じゃあ俺達と一緒だね」


そう精市は愉快そうに笑った。
私も伊織と久しぶりに試合がしたい。
私だって負け越しだ。
借りは返したいのが心情。


「そうか、楽しみだなあ。凄く興味がある」

精市は新しいオモチャを見つけたときの子供みたいに、キラキラした笑顔で言った。


「弦一郎より強いってことは、透より強いわけだ」
「うん・・・まあそうなるね」
「透だって、女子大会で優勝したのにね」
「いや・・・あれは望んで出たわけじゃ・・・」


ふふっと笑う精市。
そうなのだ。
私はテニススクールのインストラクターの口車に乗せられて、気づいたら大会に出場していて。
不本意ながらも、売られたケンカは買うタイプ。
あれよあれよと決勝まで進み、気づいたら優勝カップを貰っていた。


「うあぁ~・・・思い出したら恥ずかしくなってきた・・・あんな、大勢の目の前で・・・カップ落とすし・・・」
「あはは。あれは俺も笑っちゃったな。透って本当に、コートに立ってるときは別人のようだよね」
「そ、そう?私自身はそんなに意識してないけど・・・うーん。そうなのかな?」
「うん。あの射殺すような目線とか。いいよねゾクゾクする」
「は!?ゾ、ゾクゾク!?」


何てこと言い出すんですか幸村さん!?
初めて言われたわそんなこと!!!
っていうか、私そんな殺すような目線投げかけてたんですか・・・!?
やばい・・・今度から気をつけよう・・・


本気なのか冗談なのかわからない精市の発言に心底動揺する。

(・・・この人からかうの好きだよな・・・・・・・)

小学生相手に翻弄されてる自分が何だか情けなかった。







それから、一週間後。


『もしもし、精市か?』
『ああ弦一郎。どうしたの?』
『明日、伊織と試合するぞ』
『!・・・・・・例の女の子だね』
『うむ。面白い試合になるだろうから、お前も是非来い』
『うん。楽しみにしてるよ』




そんな電話が幸村家にかけられた。

―――――― 物語の歯車は、まだ動き出したばかり。





【終】



長いー!!!!!orz
なんかいつの間にかこんなに長くなっちゃったよwwwww
感想求む!!(●´∀`●)

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「透!!!」

見慣れた会場のドアが見えるところまで来たところで、懐かしい(1時間ぶり)の親友の声。






番外 アメリカでのクリスマス7







「伊織!!!」


私は嬉しさで思わず駆け寄って抱きしめようとした。伊織も駆け寄ってくる。


スッパーン!!!!!


「ふぬぁっ!!!」
「このバカ!!!」


私は思いっきり頭をクリーンヒットされた。

うう・・・今の右手は世界を狙える・・・・・・
頭にジンジンと痛みが走る。


「い、痛い・・・まさかの予想外・・・」
「予想外・・・じゃねえよ!!!!お前は学習能力がないのか!!迷子になるな!!」
「だ、だって・・・!!気になったんだもん・・・」
「口答えするんじゃない!!」
「っ!はいっ!!」
「バカかお前は!バカなのかお前は!!!ごめんなさいは!!??」
「ごめんなさいっ!!!」
「んもおおお!!!心配してたんだぞ!!!」
「伊織ー・・・・・・っ!!」



伊織の言うことはもっともだ。
あれこれ伊織に言われても、全くその通りすぎて何も言い返せなかった。

うう・・・私のバカ・・・




「・・・おい」



ハッ!!!
恩人のことすっかり忘れてたよ!!!!(どーん)



伊織の剣幕に若干気圧倒され気味の跡部が口を開く。
弦一郎のときもそうだったが、気圧す伊織が凄いと思う・・・。



「なに!?今取り込み中・・・・・・・・・」


伊織が固まっている。
今始めて跡部の存在に気づいたらしい。

そして、たっぷり間を空けて一言。




「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホクロ」





って、おおおおおおおおおおおお!!!??
ビックリしすぎて思考が追いつかないのはわかるけど、「ホクロ」って・・・

さすがの跡部も、まさか出会って早々に、自分が「ほくろ」呼ばわりされるとは微塵も思ってなかったようで、軽く眉間に皺が寄っている。


「おい透・・・、誰だこの失礼な女は」
「は?失礼って。ホクロはホクロじゃ「親友の秋原伊織っていうの!!」


何故私の親友は思ったことをすぐ口にするのか。



--- アイコンタクト ---

(っていうか、なんでここに跡部がいるの!?)
(いや、私だってわかんないけど、いたんだよ!私だってビックリだよ!)
(もしかして跡部に連れて来て貰ったとか言う?)
(そうそう。絡まれてる所を助けて貰ってね・・・ってそれよりお前は自重しろよ!!)
(は?何を?)
(「ホクロ」だよ!)
(いや、自重できねえよ。「べー」だよ「べ様」だよ?しょうがなくね?)
(お前の「しょうがない」の基準がわかんねえよ!)
(本当、「ホクロ」とかウケるよね!!爆笑!)
(お前が言ったんだよ!!)



若干不機嫌気味の跡部様が皮肉っぽく言う。

「あーん?もしかして秋原貿易の娘か?あの『親バカ』の」


あ。親バカって強調して言われて伊織がちょっとヘコんでる・・・。
たしかにあれは度が過ぎてるとは思うが。


「それを言うなホクロ!たしかに親バカだけど!」
「ホクロじゃねえ・・・。跡部、景吾だ!」

流せばいいのに、いちいちムキになってるところが、跡部がまだ小学生って感じがする。
なんか可愛い。

「(無視)・・・で、ホクロがここまで連れて来てくれたんだっけ?」
「(またホクロって言った・・・)あ、うん」
「おお・・・そうか。悪かった。ありがとうホクロ」
「・・・てめぇ」

伊織は跡部の反応を見て、心底楽しそうな顔をしている。
こいつはどこまで跡部景吾をネタにしたら気が済むんだ。



そんな会話をしているうちに、会場のドアからお父さんが出てきた。
・・・・・・ぶっちゃけ会いたくない。


「伊織ちゃん、透はまだ戻って来ないのか・・・・・・って透!!!!!」


伊織の横にいる私を見つけた瞬間、凄まじい勢いでこっちにダッシュしてきた。


・・・・・・げっ!!顔が・・・ 目が・・・・・・!!!


「透!大丈夫か?怪我してないか?どこに行ってたんだ・・・あんまり可愛いから連れ去られたかと・・・!お父さんは心配で、心配で・・・息が詰まる思いだったぞ・・・」


そう涙声で言われた後に、思いっきりギューっと抱きしめられた。

(男に絡まれてました。って口が裂けても言えねええええええ・・・!!!!)


そんなこと言ったら、ボディガードと四六時中一緒にいる刑。に処されること必死だ。
私は父のウザいほどの愛を体中でひしひしと感じながら、絶対に言わない決意をした。



「おや、景吾くんじゃないか」
「・・・!お久しぶりです秋原さん」

うちのお父さんの泣き声が聞こえたのか、会場から伊織のお父さんも出てきた。
どうやら雅人さんは景吾のことを知っているらしい。
まあ当たり前といったら当たり前なのかもだけど。
「おい、晃。そろそろ泣き止めよ」という雅人さんの声に、お父さんが正気に戻った。
ナイス雅人さん。


「ああ・・・(グスッ)跡部財閥のご子息か・・・。いや、失敬。こんな姿を見せてしまって」
「いえ」


跡部が苦笑いしながら私を見ている。
こいつの家も相当親バカだな。と思ったに違いない。

は、恥ずかしい・・・・・・

「そうだ。あのねお父さん、私迷ってるところを景吾・・・くんに助けてもらったの」
「本当に?そうか・・・だから一緒にいたんだね。・・・景吾くん、うちの娘を助けてくれて本当にありがとう」

お父さんが景吾の手をとってお礼を言う。さながら国民栄誉賞のような勢いだ。
メダルがこの場にあったら景吾の首にはメダルがかけられていただろう。

「私からも・・・。改めて・・・ありがとう、景吾」

そう笑いかけると、景吾も笑みで返してくれた。
年相応の景吾の笑顔。これが中学3年時の景吾だったらこうはいかないだろうな・・・。




雅人さんが景吾に話しかける。

「景吾くん、今日はご両親と一緒かい?」
「ええ」
「そうか。それはよかった」
「よかった。といいますと?」
「いや、久々に話したくてね。知らないと思うけど、景吾くんのお父さんとは古い付き合いでね。若いときはよく一緒に飲みにいったりしたんだよ」
「それは・・・知りませんでした」


まさか秋原家と跡部家がそんな関係にあったなんて。
思わず伊織を見る。


(私も知りませんでした!)
(え!?そうなの!?)
(うん。知ってたらこんな驚かないからね)
(だよね・・・。改めて秋原家ってお金持ちなんだな・・・って思ったよ)
(私もだよ・・・)


そんな会話を娘達がしているとは知らない2人は会話を続ける。

「相変わらずしっかりしてるな景吾くん。景吾くんがいれば跡部財閥も安泰だ。羨ましい」
「恐縮です」

私達と話しているときと態度が随分違う景吾。仕事モードって感じだ。


「ところで、景吾くんはテニスがとても得意だと聞いてるよ。今度伊織と対戦してみないかい?」
「ちょっ!!お父さん!!!」
「・・・そんなに伊織さんはお強いんですか?」

景吾が面白そうな顔をして伊織を見る。
伊織の顔が引きつってるのがわかる。

何カミングアウトしてるんだこのオヤジ!!といった顔だ。
・・・だよね。お前、いろいろ面倒くさいからって隠してるんだもんね。


そうとは知らない雅人さんは言葉を続ける。

「今更何照れてるんだ伊織」

ははは。と笑う雅人さんの声。完全に伊織自慢モードだ。

(照れてねええええええ!!!!)
という伊織の心の声が聞こえた。


「去年だって日本で男の子相手に連戦連勝で帰ってきたじゃないか。それに透ちゃんだってかなりの腕前だって伊織から聞いてるよ。ね、透ちゃん」
「え!?あ、いや、伊織ほどじゃないです・・・」
(私にまで矛先を!!??)

他人の娘まで自慢する親バカモード炸裂。
もうこうなった雅人さんは止められない。


「2人とも今度胸を借りるつもりで景吾くんと試合してみたらどうだい?どうかな景吾君?」
「・・・・・・へえ、それは楽しみですね」
「「っ!!」」

景吾が今までにないくらい不適な笑みを浮かべた。

背筋に冷や汗が走る。

((跡部景吾と試合なんて・・・絶対絶対絶対いやだああああああ!!!!!))








それからが、また長かった。
会場に戻って、景吾の両親や私達のお母さん達が加わって、どんどん話は弾んでいく。
景吾のお父さんは、凄くダンディ。雰囲気がドッシリとしていて風格のあるオジ様。
景吾のお母さんは、明るく優しい感じの美女。景吾は絶対お母さん似!!目元がよく似ていた。


回りは、大人も子供も含めて、秋原家、笹本家、跡部家、が家族ぐるみで会話していることに何やらざわついていた。
特に、年が近い女の子達。
私と伊織を射るように睨み付けている子もいる。

(気持ちはわかる!景吾はとらないから、そんな目で見るな!切ない!!)

体中に視線の矢を浴びながら、私は黙々とケーキを食べ続けた。








「・・・・・・じゃあここで。」
「ああ。今日は久々に会えて嬉しかった」
「俺もだ雅人。それに、笹本さんとも」
「ええ。跡部さんとお話できて、大変興味深かったです」




気づけばもうパーティもお開きの時間。
その間に、すっかり打ち解けあった3つの家族。

帰る頃には、
景吾→「伊織」、「透」
伊織→「けーご」
透→「景吾」
と呼び合うようになった。

いや、時折伊織が「ホクロ」って呼んだり、景吾が「失礼女」とか言ってたけど・・・・・・(苦笑)



黒塗りのリムジンが跡部家を乗せて静かに去っていく。
景吾とはメールアドレスや電話番号なんかは一切交換しなかった。
交換しなくても、きっとテニスをしている限りまた会えるだろうから。
伊織と相談してそう決めた。


お父さんにしてみたら、あの天下の跡部財閥と個人的な関わりができたなんて、夢のような出来事だったと思う。
帰りの車の中でも、まだ「未だに信じられないよ!」と興奮気味だ。



『まさか、あの「跡部様」が会場にいるなんてね』
『だよね!予想外にも程があるよ』
『ね。それにしても景吾のお父さん・・・ダンディだわ・・・思わず「おじ様」って言いそうに・・・』
『わかる!うちの父とは大違いだ』
『・・・雅人さんだって格好いいのに・・・。でも伊織は跡部父にやたらと気に入られてたよね』
『えー?透だってそうじゃん。「結婚」とかいう単語が出たときの晃さんの表情見た?爆笑!』
『それを言うな!!雅人さんだって目が笑ってなかったの見たぞ!』
『あー、うん。その場の温度が2度くらい下がったよね・・・』
『っていうか・・・本当に政略結婚とかある世界なんだ・・・この金持ち世界・・・』
『でも跡部と結婚はねえわ。ねえよ』
『曽根山よりは全然いいと思うけど。まあ・・・格好いいし』
『透って意外とけーごのこと・・・っていうか誰だよ曽根山』


ああ、忘れてたよ説明するの。

私はその時のことを伊織に手早く説明した。
もちろん前の方の座席に座っているお父さんには聞こえないように小さな声で。


『うわ、最悪』
『でしょ?』
『うん、事情はよーくわかった・・・・・・曽根山か・・・。そいつが言うように、そこそこデカいなら・・・もしかしたら発注請け負ってるかも・・・』
『はい?』
『こういうこと相談するのよくないってわかってるけど・・・やっぱさー、ちょっとムカつくもんねー・・・』
『?一人で何言ってんの?』
『ま、気にすんな』
『????』
『それよりさー・・・』






車は私を疑問系にしたまま家へ向かって走っていく。

私は忘れていた。
秋原家が貿易商最大手のグループであることを。
伊織がその秋原家の令嬢だってことを。


その後も絶えないお喋りは続き、自宅に着く頃には2人ともグッスリ眠っていて、
気づけば自室のベッドの上で。

だから、そんな疑問も朝起きたらすっかり忘れていた。





「んー!よく寝たー!!」




今日はリョーマに会える日だ。
今からとっても楽しみ。


・・・?でもあれ?なんか忘れてるような・・・

・・・・・・・・・まあいっか。




予想外の連続だったクリスマスは、そんな予想の範囲内の終わり方で締めくくられた。










「あのね・・・お父さん、ちょっとお願いがあるんだけど・・・」
「どうした伊織?朝からそんな神妙な顔して」


だから、そんな会話が秋原家で行われていたなんていうのは、そのときの私には全く知る由もなかった。




【完】


完成!!!できた!!!\(^0^)/
あとは、伊織目線の方で補足よろしく!!!

一応、リョーマとは結局会えなかった方向でお願いしたい。
インフルエンザとか?(笑)

あと、伊織ちゃんが相談してたのはもちろん曽根山グループが頼んでた輸入の発注を一旦ストップってうか、書類見通し?再検討?みたいな。
なんていうかちょっとハライセ?(笑)をお願いをする方向で。
でも、一応曽根山グループは跡部財閥の傘下っていう設定だから、跡部の父ちゃんにも雅人さんから連絡いれたらいいよ。
それで、息子はめっちゃくっちゃ親父に怒られたらいいよ(´∀`)

いろいろ任せる!!
伊織視点とか跡部視点とか楽しみにしてるね!!!



あと、「つづきはこちら」とかブログに表示されてるかもだけど、実際は何もないから(笑)
勝手に表示されてるだけだからwwww


誰でもいいから迎えに来て欲しかった。
でも、迎えに来たのは予想外の人物すぎて、驚きで不安なんて一瞬にして吹き飛んだんだ。








番外 アメリカでのクリスマス6










跡部景吾。私が知らないはずがない。
伊織だってもちろん知っている。



未来の・・・ 氷帝学園の―――――― キング ――・・・






「おい。何回も言わせるな。顔が悪ぃ奴は耳も悪ぃのか?」



「んな!!」
「・・・てめえ痛い目みてえようだな」



(と、登場早々になんて傍若無人な物言い・・・ )



でも、不安はどこかに吹き飛んでいた。
知っている人物がいる。というより、彼のその堂々とした態度が、私に落ち着きを取り戻させていた。
まだ掴まれている腕は痛いけど、痛みも和らいだような錯覚さえ覚えた。




「ふん・・・。このガキ、俺が誰か知らねえな・・・」


自信満々な態度でリーダー格の男が続ける。



「お前も『曽根山グループ』っていう名前くらい聞いたことあるだろ?その跡取りが俺だ」


(このガキ、曽根山っていうのか・・・。覚えてろよ。ちくしょー!!!)

取り巻きの連中もニタニタしている。そんなに凄い財閥なんだろうか・・・。



・・・でも、

(「曽根山」とか全く知らねえええええええええ!!!!誰だよ!!!!!)



私は思わず口を突いて言いそうになった。



「あーん?曽根山?ああ、あの趣味の悪いホテルばかり建てるグループか」
「んだと!?」


ハッ。と鼻で笑うような態度の跡部様。
心なしか見下した態度をとってらっしゃいます。



「曽根山グループっていやあ、先月うちの傘下になったグループじゃねえか。お前の親父、俺にペコペコ頭下げてたぜ?」
「な!!??」
「うちが援助してやってんだ・・・まあ、当然だよな?」
「ま、まさか・・・・お前、いや貴方は・・・」


曽根山とその取り巻き達の顔が見る見るうちに驚愕の表情に変わる。


「まさか、跡部財閥の・・・・・・」
「跡部、景吾・・・・・・・・」
「マジかよ・・・『跡部』もこのパーティに来てたのか・・・」


見てるこっちが可哀想になるくらいの青ざめ方だ。

・・・まあ、「ガキ」とか言ってた奴が、親会社の社長の息子って知ったら・・・そりゃああなるよな・・・


曽根山と取り巻きが声にもならない声をあげる。






「わかったら、失せろ。二度とその面見せるんじゃねえ」





跡部がそう言った途端、



「「「す、すいませんでした!!!!!」」」



といって蜘蛛の子を散らすように、駆けていった。
後には私と跡部だけが取り残された。すぐに廊下がシンと静まる。



(権力を振りかざす奴って、本当に権力に弱いんだな・・・・・・)


私はしばしポカーンとなったが、すぐに床にくずれるように座り込んだ。
安心したら、我慢していた涙が溢れるように出てきた。


「おい、大丈夫かお前」


跡部が目の前にハンカチを出してくれた。
なんていい子なんだ・・・。お姉さん感激だ・・・。可愛いし・・・。

半ばオバさんのような心境。その紳士な態度に感動してまた涙がこぼれる。


「うん・・・ありがとう・・・」


あ。

思わずタメ口を利いてしまったが、別段跡部は気にする様子もない。



「立てるか?」

「うん・・・ってあれ・・・・・・た、立てませン」

言われて、足に力を入れようとするものの、腰が抜けて立てない。


「・・・しょうがねえな」


跡部は私の右手を掴んで引っ張って立たせた。
そしてそのまま歩き出す。

「うぁ、えっと・・・そのどこへ?」
「あーん?お前会場に戻りてえんだろ?」

跡部がズンズン歩きながら答える。まだ右手は繋がったまま。



「俺様が直々に連れてってやる」



それからは早かった。
階段を上へ、下へ、複雑な廊下を迷いなく進んでいく。


「あの、跡部・・・くん」
「景吾でいい」
「(景吾でいいって・・・!!)・・・・・・景吾くんは・・・」
「景吾」

(こ、これ精市のときとまったく同じ展開なんですけど・・・)

「・・・・・・・・・景、吾・・・は」
「なんだよ」
「何であんなところにいたの?」
「あーん?会場にいてもつまらなかったからな。ちょっと散歩してた」


(つまらなかったから、散歩!!!!!)


跡部景吾の年相応な理由に思わず顔がニヤけそうになった。


「そうしたら、お前が泣いてたから助けてやったんだろうが」
「・・・うぇ、はい。その節はお世話になりました・・・」

思わず顔が赤くなる。私は弦一郎をはじめ、年下にお世話になりっぱなしだ。


「ところでお前、名前は?」
「あ、そうだった・・・えと、笹本透です」
「笹本透だな。覚えた」


(ひいいいいい!!!!名前覚えられた!!!!)



俺の手を煩わせた女。としてブラックリストに載せられるんだろうか・・・・・・
そんな嫌な考えばかりが脳内をグルグルする。


見たことがある美術品が並ぶ廊下に出た。所要時間、5分。

(なんでみんなこんな風に道を覚えられるんだろう・・・・・・)


私はただただ跡部様に連れられるままひたすら廊下を歩いた。





【続】

ええと・・・これっていわゆる・・・・・・ ナンパ?







番外 アメリカでのクリスマス5










聞き間違いであって欲しいと思って、「は?」って言ったのに。

「だからー。俺達とちょっとどこか遊びにいかない?って言ってるの」
「うちが経営してるクラブがこの近くにあってさ。そこいかない?ね?」
「どうせ君も本当は暇だからこんなところにいたんでしょ?」



(ちげーよ!!!!トイレにいった帰りだよ!!!!)

私は盛大に心の中でつっこんだ。



この空間で遊ぶって・・・どうやって??かくれんぼか?鬼ごっこか?
なんてことを考えた私はどうやら甘かったようですお母さん。

まさかこんな展開になるとは思いませんでしたよ!!!!!
予想外です!!!!テニプリの世界が早熟だってこと、すっかり忘れてたよ!!!!!(ガーン)



「ねえ、聞いてる?」


3人のうちの一人が、馴れ馴れしく肩に手を置いてくる。
何だか背筋がゾワっとした。


「っ!・・・触らないでください」


手でそれを振り払って、出来る限り冷静な言葉と顔で、キッと見返した。
でもこの3人にはまったく効果がないようだった。


「そんな怖い顔しないでよ。せっかく可愛い顔してるんだからさ」
「そうそう。迷ったー。とか言って、君も本当は遊びたいから俺達に声かけたんじゃないの?」
「あー、ありそう。女の子ってそういうところあるしなー」


3人はニタニタとした下卑た笑いを浮かべながら、そんなことを言い出した。
思わず頭がカッとなる。そんな風に見えるか!?私がそんな風に見えるか!?
軽い女に見られたことが屈辱だった。


(誰がお前らなんかと遊ぶか!!こちとら健全な青少年だっつーの!!テニスと剣道しかしてないっつーの!!)


今思えば、弦一郎のなんと真面目なことか。(顔恐いけど)
弦一郎のなんと純粋なことか。(顔恐いけど)
なんと爽やかなことか。(顔恐いけど)

弦一郎なんて夜9時には就寝するんだぞ!!夜遊びなんて一切しないんだぞ!!




我慢していたが、もう限界に近い。


「・・・・・・もういいです。自分でなんとかします」


こいつらと話していても埒が明かないと踏み、踵を返して歩き出す。



「そっち、会場の方向じゃないぜ?」

「・・・っ!ど・・・っちですか・・・」

「さあ?」
「あはは。君、方向音痴なんだ。じゃあ俺達がいないと帰れないね」


(このガキ共、殴りてえええええええええ!!!!)



ぶん殴りたい衝動に駆られたが、かろうじて自分の心を押さえつける。
頭から湯気が出そうだ。こいつらの親の顔が見てみたい。
この際迷ってもいい。この場からとにかく脱出したかった。
とりあえず、そっちじゃない。と言われた言葉を信じて、それとは違う方向に歩き出そうとした瞬間。



「ちょっと待てよ。話の途中だろ?」
「っちょ!放して!!」


リーダー格の男が私の二の腕をガッシリと掴んだ。
振り払おうとしても離れない。
腕を力いっぱい振ってみても、腕は掴まれたまま、更に力を込められる。


「っ痛!!」

「おい、あんまり手荒に扱うなよ」
「そうだぜ。そんな華奢な子にさ」

「!!」




昔と違って随分筋力も、腕力もついたと思っていたのに。



『華奢』



その一言は自分が「女の子」であると思い知らされる。
弦一郎と、修行した毎日。
練習しなければ、トレーニングしなければ、私は「女の子」だから、置いていかれる。
同じ量を頑張っても、いつかは差が開く。それは男と女の体格の違いだから、しょうがないのはわかってる。

でも対等だって、そう思われたくて。弦一郎と同じ量の厳しい練習も頑張った。

でも、こんな軟弱な男の力にも屈服するのか。



(こいつら・・・私がテニススクールで、影で「筋肉女」って言われてるの・・・知らないでしょ・・・)


悔しい。


(同年代の男の子で私に勝てるのなんて、ほんの一握りなんだからね・・・)


悔しい。


(ここに竹刀があったらお前らなんかコテンパンにしてやるのに・・・・・・)


悔しい。


「はな、せぇ・・・!!」


悔しくて、悔しくて、涙が出た。












「その汚い手をどけな」












・・・ふぇ?









「!!」
「んだよ・・・!このガキ」
「ガキはさっさとママのとこ帰りな」







見間違いじゃ。ない・・・。





「彼」と目が合う。



パッチリと開かれた、印象的な青い瞳。
目元にある、泣き黒子。



私の記憶が・・・ただしければ・・・


彼の名前は・・・



「あーん?聞こえなかったのか?こいつから手を離せといったんだよ」





名前は・・・ 『跡部景吾』。




【続】



やっと出たー!!!(爆笑)
長いなこの番外!!めっちゃ透メインだしwwww
楽しんでてごめんwwwww
ガシャーンッ!!!!


「!!!」


20mほど引き返したところで、静寂を打ち破る、大きな音。
振り返ってみれば、無言で佇んでいたはずの鎧の首の1つが床に落ちていた。





番外 アメリカでのクリスマス4




(何!?なんでいきなり兜が落ちるわけ!?怖っ!!怪奇現象ですか!!??)


廊下の曲がり角付近にある鎧の首がカラカラと音をたてて転がっている。
私はホラーが大の苦手なので、軽くパニックになりそうだったが、すぐに正気を取り戻した。
何故ならその曲がり角から、人が現れたのが見えたからだ。



『やっちまったなーお前』
『あーらら』
『大丈夫だろ。壊れてもこれくらい金でどうとでもなる』



現れたのは3人の男の子。
3人ともフォーマルの衣装を着ている。きっとあのパーティに出席していた子達なんだろう。


(なんか、見るからに悪ガキっぽいけど・・・、やった!!人間だ!!助かった!!)


1時間ぶりの人間だ。悪ガキだろうが、何だろうが、背に腹はかえられない。


「すみませーん!!!」


半ば遭難者の気持ちで彼らに近づく。
声をかけた男の子達は、(今の)私より3つ、4つ年上。といったところか。
高級そうなスーツを3人とも身に付けている。見るからにどこかの財閥のお坊ちゃんだ。

私の存在に気づいた彼らが私を見る。
私が近づくにつれて、何故か男の子達の笑みが大きくなった。


(・・・・・・私何か喜ばせるようなことでもしたか・・・?)


私は別段警戒せずに彼らに近づいていった。





・・・・・・だって、こいつら子供じゃん?






でも、そのときは忘れていた。
テニプリの世界は、やたら早熟であることを。





(おい…この子…)
(ああ会場にいた子だな)
(だな。一緒にいた子も可愛かったが…)
(父親達がベッタリくっついてて、声かけられなかったんだよね)
(まさかこんなところで会えるとは…)
(ああ、抜け出してきて正解だったな)




小声で話しているからか、私には何を話してるのかまったく聞こえない。
上から下まで観察されているようで、なんだか感じが悪い。


(・・・・・・平民オーラ出ちゃってるのか・・・?馬子にも衣装だぜ!とか言われてるんだろうか・・・)


そんなことを考えているうちに、3人のうちのリーダー格であろう男の子と目が合う。
その子は不適に、にぃっと笑った。



「君、こんなところでどうしたの?迷子?」
「あ、はい。すっかり迷ってしまって・・・」
「このホテルも広いからね。・・・まあ、うちが経営してるホテルには及ばないけどね」
「・・・あー・・・。そ、そうなんですかー・・・」



(・・・き、嫌いな金持ちのタイプだー!!!!!)




声をかけたことに後悔の念を覚えたが、頼りになる人間はこいつらしかいない。
こういう、感じの悪い奴に頭をさげるのは気に食わないが、私も年を考えればいい大人。


ふっ・・・大人な対応で、切り抜けてやるぜ・・・!!




「と、ところで。あなた方は今日のパーティに招待された方々・・・ですよね?」
「そうだよ。見てわかるだろ?」
「で、ですよね・・・。あはは・・・。(くっ・・・何かいちいちイラッとする!!)あの、もしよかったら会場まで案内して欲しいんですけど・・・。私、会場に戻りたくて・・・」


そう言った途端、3人は顔を見合わせて一層、笑みを大きくした。


「それよりさ、ちょっと俺達と遊ばない?」

「は?」






【続】
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