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「ぅわ…」
「何これ」
「これが普通らしいけどね」
「…けしからん」
29、5話
テニスコートに向かって飛び交う女子生徒達の黄色い声。
っていうか、人の群れでテニスコートが見えないんですけど。
(・・・どこのアイドルがコンサートするんだろう・・・)
私は軽く遠い目でテニスコート(という名の人の群れ)を眺めた。
伊織なんかは「ね、本当にここテニスコート?」なんて精市に聞いている。
うん、気持ちはわかる。
「君たちは入部希望?」
声のした方向を振り向けば、テニス部員の証である芥子色のジャージに身を包んだ人間が立っていた。
何だか優しそうな人。
先輩と思しき人の問いかけに慌てて首を振ると、部室の前まで案内してくれた。
「・・・あそこのベンチの真ん中に座っている人がテニス部部長の湯沢だよ。俺は彼らに少し話があるから、君たちは先に部長に入部届けを出してきてくれ」
「あ、わかりました」
「行こう、透」
弦一郎と精市をその場に残し、私と伊織は例の群れ(別名テニスコート)に向かう。
先輩が指を差した部長はテニスコート内にいらっしゃる。
なんとかして、この女子でコーティングされたバリケードを突破しなければいけない。
(っていうか・・・扉の前にまで・・・あーあー・・・)
狂乱する女子生徒は盲目も同然。
テニスコートへの入り口にもビッチリ張り付いていて、キャー!という可愛い声をあげている。
うーん。若い。
「ちょ、どいて!」
「何よあんた!」
どうしたもんか、と思案していたら、気づけば伊織が群れの中に果敢にも一騎単体で突っ込んでいた。
「押さないでよね!」
「順番守りなさいよ!」
「いいからさっさとどけっつーの!」
(伊織、格好いいー!)
しかし、伊織の特攻虚しく、「チッ・・・きりがないな」という台詞で戻ってきた。
お疲れ様です隊長。
「ね、伊織。これ無理じゃない?」
「でも、ここを通らないと中に入れないし」
確かに。入り口は一つしかない。
やはり神風よろしく突っ込むしかないのか。
「透!」
「え!?」
伊織は私の手を取って、再度突っ込んだ。
(ちょ!ちょ!ちょっ!!)
右に左に、ギュウギュウになるかならないかのところで女子生徒の間を抜け、なんとかフェンス内に入れた。
何だか満員電車の中を突っ切った感じに似ていた。
(す、凄いな伊織・・・!!グッジョブ!)
親指を突き出してグッとやると、伊織もグッとやってくれた。
「よし!透行こう」
「うん、ありがと」
「いえいえー」
笑う伊織の顔には、ほのかにやり遂げた感が漂っていた。
さすが伊織さんです。頼りになります。
・・・あのベンチに座っているのが部長かな・・・?
部長だと思しき男子生徒に声をかける。
「すみません、部長の湯沢先輩ですか?」
「ああ、そうだよ。君たちは入部希望かい?」
「はい。私たち、マネージャー希望です」
「そうか。入部届けをくれるかな」
「どうぞ」
「はい」
部長はスッと立ち上がって、入部届けを受け取ってしげしげと眺める。
そして私は気づいた。
(か、顔が・・・凄く整っている・・・・・・・)
いわゆる美少年ってやつだ。
切れ長の目元に黒い髪の毛。
涼しい雰囲気の日本美人。
見上げるくらいに高い身長。もちろん脚なんかも長い。
この世界のテニス部は、自然に美少年が集まるように出来てるんだろうか・・・。
私はこの世界の神秘をまた一つ知った。
入部届けの確認をし終わった湯沢部長が名前の確認をしてきた。
「私が秋原伊織です」
「笹本透です」
「小さい方が秋原さんで、高い方が笹本さんね」
「・・・そうです」
「(その覚え方どうなんだ)…はい」
「俺は湯沢大輔。男子テニス部の部長だ。これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
なんだか、思ったよりも簡単に入部できてしまった。
もっと厳正な審査とか、質問とか、面接とかあるかと思って身構えていただけに拍子抜けだ。
「もう少ししたら説明をするから、マネージャーの部室にいてくれ」
「マネージャーの部室?」
「マネージャー専用の部室だ。あそこだよ。先に何人かいるから一緒に待っててくれ」
指差した方向を見れば確かに。
部室と少し離れた場所に小さな建物がある。
わかりました。という言葉と共に部長を後にする。
またあの女子生徒の群れを突破することを考えると、すでに精神疲労に襲われた。
・・・・・・あのファンの女の子達なんとかならないのかね・・・
「失礼します」
「失礼しまーす」
伊織と一緒にマネージャーの部室に入ると、部長が言った通りマネージャー希望の生徒がいた。
人数は3人。全員女子生徒。
こちらと一瞬目が合ったものの、フイッと目を逸らしすぐにまたお喋りに夢中になる。
(うーん・・・せっかくだから仲良くなろうかと思ったけど・・・。この年頃の女の子って難しいな・・・)
伊織と目配せをして、中に入る。
室内には椅子が3脚しかないため、私達は壁際に立って待つことにした。
「ね、透。この部屋ってさ、いつも使ってると思う?」
「…思わない。すっごく汚いもん」
「だよねー」
はっきり言って。めちゃくちゃ汚い。
屋外の建物で土足だから、とかの次元ではない。
部室というより倉庫って感じだ。
雑多に物が置かれていて、どこに何があるのかも一目ではわからない。
(掃除しようよ・・・・・・)
男子だからって言葉で片付けていいものじゃないと思う。
(1番にやることは・・・掃除だな)
「透、頑張ろうね!」
「もちろん!」
伊織も同じことを思っていたのか、ガッツポーズをしている。
そうだ。こんなゴミや埃なんかに負けていられない。
5人もマネージャーがいるんだから、きっとすぐ終わるに違いない。
全然余裕ですよ!!
途端に元気になってきた。
「ここら辺の部誌ってさ読んでいいと思う?」
「いいんじゃないかな?別に隠すようなものでもないでしょ」
「そっか」
部誌を棚から引き抜いて中を覗く。
設立当初からの部誌の数々。
20年か30年分、へたしたらもっとありそうな量だ。
あまりにも昔のものは貴重そうなので、棚に丁寧に戻しておく。
部誌をパラパラとめくっていると、部室の扉が開いた。
「待たせたね。紹介と説明をするからこっちに来てもらえるか」
やっと、部活が始まる。
私は密かに呼吸を整えた。
【終】
「何これ」
「これが普通らしいけどね」
「…けしからん」
29、5話
テニスコートに向かって飛び交う女子生徒達の黄色い声。
っていうか、人の群れでテニスコートが見えないんですけど。
(・・・どこのアイドルがコンサートするんだろう・・・)
私は軽く遠い目でテニスコート(という名の人の群れ)を眺めた。
伊織なんかは「ね、本当にここテニスコート?」なんて精市に聞いている。
うん、気持ちはわかる。
「君たちは入部希望?」
声のした方向を振り向けば、テニス部員の証である芥子色のジャージに身を包んだ人間が立っていた。
何だか優しそうな人。
先輩と思しき人の問いかけに慌てて首を振ると、部室の前まで案内してくれた。
「・・・あそこのベンチの真ん中に座っている人がテニス部部長の湯沢だよ。俺は彼らに少し話があるから、君たちは先に部長に入部届けを出してきてくれ」
「あ、わかりました」
「行こう、透」
弦一郎と精市をその場に残し、私と伊織は例の群れ(別名テニスコート)に向かう。
先輩が指を差した部長はテニスコート内にいらっしゃる。
なんとかして、この女子でコーティングされたバリケードを突破しなければいけない。
(っていうか・・・扉の前にまで・・・あーあー・・・)
狂乱する女子生徒は盲目も同然。
テニスコートへの入り口にもビッチリ張り付いていて、キャー!という可愛い声をあげている。
うーん。若い。
「ちょ、どいて!」
「何よあんた!」
どうしたもんか、と思案していたら、気づけば伊織が群れの中に果敢にも一騎単体で突っ込んでいた。
「押さないでよね!」
「順番守りなさいよ!」
「いいからさっさとどけっつーの!」
(伊織、格好いいー!)
しかし、伊織の特攻虚しく、「チッ・・・きりがないな」という台詞で戻ってきた。
お疲れ様です隊長。
「ね、伊織。これ無理じゃない?」
「でも、ここを通らないと中に入れないし」
確かに。入り口は一つしかない。
やはり神風よろしく突っ込むしかないのか。
「透!」
「え!?」
伊織は私の手を取って、再度突っ込んだ。
(ちょ!ちょ!ちょっ!!)
右に左に、ギュウギュウになるかならないかのところで女子生徒の間を抜け、なんとかフェンス内に入れた。
何だか満員電車の中を突っ切った感じに似ていた。
(す、凄いな伊織・・・!!グッジョブ!)
親指を突き出してグッとやると、伊織もグッとやってくれた。
「よし!透行こう」
「うん、ありがと」
「いえいえー」
笑う伊織の顔には、ほのかにやり遂げた感が漂っていた。
さすが伊織さんです。頼りになります。
・・・あのベンチに座っているのが部長かな・・・?
部長だと思しき男子生徒に声をかける。
「すみません、部長の湯沢先輩ですか?」
「ああ、そうだよ。君たちは入部希望かい?」
「はい。私たち、マネージャー希望です」
「そうか。入部届けをくれるかな」
「どうぞ」
「はい」
部長はスッと立ち上がって、入部届けを受け取ってしげしげと眺める。
そして私は気づいた。
(か、顔が・・・凄く整っている・・・・・・・)
いわゆる美少年ってやつだ。
切れ長の目元に黒い髪の毛。
涼しい雰囲気の日本美人。
見上げるくらいに高い身長。もちろん脚なんかも長い。
この世界のテニス部は、自然に美少年が集まるように出来てるんだろうか・・・。
私はこの世界の神秘をまた一つ知った。
入部届けの確認をし終わった湯沢部長が名前の確認をしてきた。
「私が秋原伊織です」
「笹本透です」
「小さい方が秋原さんで、高い方が笹本さんね」
「・・・そうです」
「(その覚え方どうなんだ)…はい」
「俺は湯沢大輔。男子テニス部の部長だ。これからよろしく」
「はい、よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
なんだか、思ったよりも簡単に入部できてしまった。
もっと厳正な審査とか、質問とか、面接とかあるかと思って身構えていただけに拍子抜けだ。
「もう少ししたら説明をするから、マネージャーの部室にいてくれ」
「マネージャーの部室?」
「マネージャー専用の部室だ。あそこだよ。先に何人かいるから一緒に待っててくれ」
指差した方向を見れば確かに。
部室と少し離れた場所に小さな建物がある。
わかりました。という言葉と共に部長を後にする。
またあの女子生徒の群れを突破することを考えると、すでに精神疲労に襲われた。
・・・・・・あのファンの女の子達なんとかならないのかね・・・
「失礼します」
「失礼しまーす」
伊織と一緒にマネージャーの部室に入ると、部長が言った通りマネージャー希望の生徒がいた。
人数は3人。全員女子生徒。
こちらと一瞬目が合ったものの、フイッと目を逸らしすぐにまたお喋りに夢中になる。
(うーん・・・せっかくだから仲良くなろうかと思ったけど・・・。この年頃の女の子って難しいな・・・)
伊織と目配せをして、中に入る。
室内には椅子が3脚しかないため、私達は壁際に立って待つことにした。
「ね、透。この部屋ってさ、いつも使ってると思う?」
「…思わない。すっごく汚いもん」
「だよねー」
はっきり言って。めちゃくちゃ汚い。
屋外の建物で土足だから、とかの次元ではない。
部室というより倉庫って感じだ。
雑多に物が置かれていて、どこに何があるのかも一目ではわからない。
(掃除しようよ・・・・・・)
男子だからって言葉で片付けていいものじゃないと思う。
(1番にやることは・・・掃除だな)
「透、頑張ろうね!」
「もちろん!」
伊織も同じことを思っていたのか、ガッツポーズをしている。
そうだ。こんなゴミや埃なんかに負けていられない。
5人もマネージャーがいるんだから、きっとすぐ終わるに違いない。
全然余裕ですよ!!
途端に元気になってきた。
「ここら辺の部誌ってさ読んでいいと思う?」
「いいんじゃないかな?別に隠すようなものでもないでしょ」
「そっか」
部誌を棚から引き抜いて中を覗く。
設立当初からの部誌の数々。
20年か30年分、へたしたらもっとありそうな量だ。
あまりにも昔のものは貴重そうなので、棚に丁寧に戻しておく。
部誌をパラパラとめくっていると、部室の扉が開いた。
「待たせたね。紹介と説明をするからこっちに来てもらえるか」
やっと、部活が始まる。
私は密かに呼吸を整えた。
【終】
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