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20090124設置
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精市と最初に出会ったのは、他ならぬテニススクール。
小学校3年生になったばかりの春のこと。






神の子と会った日






「弦一郎!」
「む、その声は精市か」

ラケットを大事そうに抱えながら男の子がフェンス越しに声をかけてきた。


っ!せ、せいいち・・・だと!?
漢字変換したら「精市」ですか?そうですか?


このテニススクールに入って2年間。
まさか、同じテニススクールだとは知らなかった!!!!(どーん)



「久しぶりだな精市。今までどうしていたのだ?」
「うん、ちょっと家の都合で、小学校にあがってからずっと違う時間帯で通ってたんだ」
「そうだったのか。それで今日はどうしたんだ?」
「弦一郎と久々に試合がしたくてね。・・・ところでその子は?」

弦一郎の後ろにいた私に気づいた幸村が私のことを聞く。
き、気づかなくてよかったのに幸村さん!!


「ああ、お前と入れ違いに通うことになった、透という。透、こやつは幸村だ。会うのは初めてだな」
「へえ、透っていうんだ。俺、幸村精市。よろしくね」

挨拶されて、右手を出される。
こ、これは・・・握手・・・ですか?

「あ・・・笹本透でス。よ、よろしく、幸村くん・・・」


私もそう挨拶をして、幸村と握手する。
気分的にアイドルと握手した気分だ。
あの幸村だ。と思ったら、何だか変に緊張してしまって、上ずった声で挨拶をしてしまった。
そんなガッチガチに緊張した私を見てクスクス笑っている。
こ、子供相手に大人気ない・・・・・・。


しかし、それにしても幸村の何と可愛いことか。
天使がいたら、多分こんな感じだと思うよ・・・!!


「学校の友達?」
「3年程前に、うちの隣に引っ越してきてな」
「ふーん、そうなんだ」

そう言って幸村は私をニコニコしながら眺めてくる。
わ、私そんなに不自然なところありますかね・・・?


「君も、一緒に試合しない?」
「ふぇ?わ、私?」
「うん。俺、君とも試合してみたいな」


か、神の子と試合ですか!?
無理です!私無理です!!

『テニス歴2年、笹本透!よろしく頼むぜ!』
みたいな、青学の某1年生のノリにはさすがになれない。



「ふむ、幸村と試合か。お前もいい経験になると思うぞ。幸村は同年の中では1番上手いからな」
「ほら、弦一郎もこう言ってるしさ。ね?軽く打ち合うだけだから」
 
そう、2人に言われたら頷くしかない。頷かざるを得ない。
小学生なのに、この有無を言わせないような妙なプレッシャーは何だろう。


「う・・・ちょ、ちょっとだけだよ?」
「うん。やった、楽しみだな」
「うむ。透はなかなか筋がいいぞ」


ヒッ!またハードルをあげるような発言を・・・!!(泣)


まだ幼いとはいえ・・・神の子と試合か・・・
私まだ弦一郎の打球に追いつくのがやっとなのに・・・


「あ・・・私、コート使ってもいいかコーチの先生に聞いてくるね!」

なんだかこの空気の中に居たたまれなくなって、逃げるようにその場を離れた。
うう・・・このまま帰りたい・・・


「ふふ・・・透って可愛い子だね。隅に置けないなあ弦一郎も」
「む?何か言ったか」
「ううん。聞こえてなかったならいいんだ」
「?そうか」






普通にコーチに許可を貰って、先に弦一郎と幸村が試合することになった。
その後に、私と・・・幸村の試合です・・・。
コーチまで、「幸村くんと試合か!彼は強いよー!頑張って!」とガッツポーズで激励をくれた。
(いっそ『試合は駄目だ』って言って欲しかったよ・・・)




「3ゲームマッチでいい?」
「ああ、それでいい」


いつの間にかコートの回りには少なからずギャラリーが集まっている。
弦一郎もこの年齢の割りには上手いから、同じ時間に通っている同年代の子は興味津々だ。
しかも、相手はその弦一郎が『上手い』と称する幸村精市。
少し年上の生徒なんかも集まってきている。

・・・これ終わったあと、私このギャラリーの中でするのかな・・・

嫌な予想が脳内を横切ったが、忘れることにした。



 



パァンッ!!!



(・・・・・・凄い。なんて無駄のないフォーム・・・)



幸村と弦一郎の接戦。
でもやはり幸村優勢といったところ。

幸村が打つストロークは、まるでコートに吸い寄せられるように決まる。



『・・・ほう、やはり幸村くんは上手いな』
『ああ。しかし真田くんにも天性の才能を感じるよ』
『いや、小学生なのに・・・。これだけハイレベルな試合とは、将来が楽しみだな』

大人達が近くでそんなことを話していた。
私は改めて、テニプリの世界に来てしまったんだなあと思った。





「3-2! 勝者、幸村!」


3ゲームマッチだから、終わるまではそんなに時間はかからなかった。
それまで静まり返っていたコートにわっと歓声があがる。
幸村と弦一郎がネット越しに握手をしているのが見えた。
そのまま、2人は私に向かって歩いてくる。


「どうだった透?」
「・・・凄かった。幸村くんて本当に強いんだね・・・」
「ふふ・・・そんな風に褒められるの、嬉しいな」
「だって本当だもん。私、弦一郎が負けるの初めて見たかも」
「む、俺だって負けたことくらいはそれこそ何十回とあるぞ」
「それに1セットマッチじゃないしね。俺だって負けるときは負けるよ」

そう言いながらタオルで汗を拭く2人。

(・・・あ)

私は試合中に感じた違和感を弦一郎に聞いてみた。
間違いだったらいいんだけど。


「弦一郎」
「なんだ?」
「もしかして、右足痛くなかった?」

弦一郎が怪訝そうな顔をした。
やっぱり間違いだったかな・・・。


「・・・何でそう思った?」
「ん?んー、最後のフォアの踏み込みが、なんか甘かったかな?って・・・。いや、痛くならいいんだけど」
「いや、その通りだ。少し捻った感じがしてな・・・」
「やっぱり?あと・・・幸村くんも、もしかしてだけど右手首に違和感がある?」

そう聞いたら、幸村は軽く驚くような顔をした。


「・・・・・・驚いたな。よく気づいたね。でももう違和感はないよ」
「うん。なんとなくだけどね・・・。あ、処置してもらった方がいいよ」
「・・・そうだね。ありがとう」
「ああ、見て貰うことにしよう」
「うん。じゃあ、休憩挟んだら試合しよっか。よろしく幸村くん。」


それまで準備体操でもしてるね。とそう2人に言って、私はコート脇まで行って軽くストレッチにかかる。
ギャラリーは、2人の試合が終わったことで興味をなくしたのか、大方自分の練習に戻っていった。



『・・・凄い洞察力だね透って。違和感を感じたのは本当に一瞬だけだったんだけど』
『うむ。動作の一瞬の変化を見極めるのがあやつは非常に上手くてな』
『へえ、凄いな』
『ああ。うちの道場でもなかなか筋がいいとお祖父様が言っていた』
『道場って、剣道だっけ?』
『透は剣道も習っていてな』
『それでか・・・』



「?」

なんか目線を感じるので、顔を上げると幸村と目が合った。
瞬間、ひらひらと笑顔で手を振られたので、振り替えしておく。

ああ・・・可愛いなあ・・・(ほやーん)


自分が冷静に分析されてるなんて知る由もない透だった。









「よし、じゃあ試合しようか」
「う・・・お手柔らかに・・・」
「サーブは透からでいいよ」


すっかり体力を回復した幸村がネットを挟んで立っている。
弦一郎とは違う、妙な圧迫感だ。

(なんでこの世界の子供は、変なオーラ発してるんだよ・・・)

念じたところでこの空気の重みは変わらない。
勝負は3ゲームマッチ。
先に3ゲームとった方が勝ちだ。
幸村に勝てるとは思わないけど、精一杯やろうと思った。





スゥ・・・

よし。


1回深く深呼吸をして、試合に気持ちを切り替える。
剣道の試合も、テニスの試合も、この切り替えの儀式が常になっていた。


一連の動作を経て、ボールは幸村のサービスコートへ。


「・・・・・・いい打球だね」


そう言って幸村は難なく私のサーブを打ち返す。
・・・最初からエースとれるなんて思ってませんよ・・・


パコンッ  パコンッ  パコンッ


・・・・・・・・・

(あ、遊ばれてる・・・・・・!!)



右に、左に、私は幸村の打つストロークに振り回されていた。
やはり多少は手加減をしてくれているのか、ギリギリながらもなんとかラリーは続く。

格上の相手だからしょうがないけど、やはり1ポイントくらいはとりたい。

そんなことを思っている間に、すでにゲームは「2-0」。
2ゲームともラブゲームだ。
そして今現在のスコアは「40-0」。

もう後がない。



「・・・そろそろ終わりにしようか?」
「っ!」


それまでストロークを打っていた幸村の体勢が一瞬変わる。


ボレーだ。




そう瞬間で感じとった私はネットまで駆けた。

ボールにラケットが届く。




「っはぁ!!」

「っ!」



パァンッ!!
という小気味のいい音が響いて、私が打ったボールは幸村の右脇をクロスに抜けた。



「40-15!!」



「ほう」

弦一郎の軽く驚いた声が聞こえた。


「・・・はあ、はあ・・・やったぁ・・・」
「驚いたな・・・そこでパッシングショットがくるとは思わなかった」


ネット越しに幸村がそう微笑む。


「透って、結構負けず嫌い?」
「はあ・・・はあ・・・、そうかも・・・」


私と幸村は互いに微笑む。
息も絶え絶えの私だったけど、3ゲームといわず1セットマッチにすればよかったと思った。
今、最高に楽しいって、そう思ったから。





「3-0! 勝者!幸村!」


結局「3-0」の惨敗。
ポイントがとれたのは最後の1球だけ。
それ以外はすべてストレート負けだ。


「やっぱり、幸村くんは強いね・・・!全然攻めさせてくれないもん・・・!」
「ふふ・・・俺も透がここまでやるなんて思わなかったよ。面白かった」


幸村と握手をする。
今は負けたことよりも、1ポイントでもとれたことがとても嬉しかった。


「まさか透が1ポイントとるとはな。見直したぞ」
「でも、それ以外はラブゲームだよ?」
「俺も油断してた。それなりに手加減はしてたけど、実は1ポイントもとらせる気はなかったからね」


そう言いながら幸村はニコニコと笑顔を向けてくる。
なんだかその笑顔に冷や汗が走る。


「俺、透のこと気に入っちゃったな。また試合しようね。絶対。」
「(絶対!?っていうか名前・・・。あれ?ゲーム中も呼び捨てだったような・・・)うん・・・よろしく幸村くん・・・」
「弦一郎ともね。また試合しよう」
「ああ。次はお前に勝つぞ」


そう言って2人は互いに拳をコツンとやっていた。
なんか、いいよね男の子のこういうところって。


「ところで・・・」
「うん?何?幸村くん」
「それ。『幸村くん』じゃなくて、精市って呼んで欲しいな」

・・・・・・・・・・・・・

ふぇ!?
名前で呼んでいいんですか!?幸村の!?

思わず軽く動揺する。


「え?あ・・・じゃあ、精市くん・・・」
「そうじゃなくて、弦一郎を呼ぶみたいに、俺も『精市』って」
「・・・・・・せ、精市?」
「うん」


おずおずと口に出すと、幸村は満足そうに頷いた。
幸村がにっこりと嬉しそうに笑うので、私もつられて笑顔になる。


それが、幸村との最初の出会い。









「6-1!!勝者!幸村!」



「はぁ・・・はぁ・・・また、負けた・・・はぁ・・・」


コート外に出た途端、私はペタンと力なく座り込んだ。
精市と会ってから3回目の春。
あれから1度も幸村に勝てたことはない。
まあ、Jr,大会優勝者に勝てるとは、到底思っていませんが。



「負けたっていうけど、今日は俺から1ゲームとったじゃない。最初に比べたら凄い進歩だよ透」
「あはは・・・そうだね。あのときは1ポイントでやっとだったから」


あれから精市とは仲良くなって、休日はたまに弦一郎と3人で打ち合う仲になった。
弦一郎はひたすら壁打ちをしている。


「弦一郎、張り切ってるな。気合が入ってる」
「うん。次こそ伊織に勝つんだー!って。毎朝私なんて練習に付き合わされるんだから・・・」
「お疲れ様。『伊織』って、4年のときに弦一郎に勝った女の子の名前だろう?」
「そう、私がアメリカにいた時の友達なの。凄くテニスが強いんだ」
「だろうね。俺も試合してみたいな」

4年の夏休みの間、精市は母方の実家で夏休みを過ごしたらしく、伊織が来たときは会えなかった。


「試合、できると思うよ。伊織こっちに来るから」
「日本に?」
「うん。立海に通うって」
「へえ。じゃあ俺達と一緒だね」


そう精市は愉快そうに笑った。
私も伊織と久しぶりに試合がしたい。
私だって負け越しだ。
借りは返したいのが心情。


「そうか、楽しみだなあ。凄く興味がある」

精市は新しいオモチャを見つけたときの子供みたいに、キラキラした笑顔で言った。


「弦一郎より強いってことは、透より強いわけだ」
「うん・・・まあそうなるね」
「透だって、女子大会で優勝したのにね」
「いや・・・あれは望んで出たわけじゃ・・・」


ふふっと笑う精市。
そうなのだ。
私はテニススクールのインストラクターの口車に乗せられて、気づいたら大会に出場していて。
不本意ながらも、売られたケンカは買うタイプ。
あれよあれよと決勝まで進み、気づいたら優勝カップを貰っていた。


「うあぁ~・・・思い出したら恥ずかしくなってきた・・・あんな、大勢の目の前で・・・カップ落とすし・・・」
「あはは。あれは俺も笑っちゃったな。透って本当に、コートに立ってるときは別人のようだよね」
「そ、そう?私自身はそんなに意識してないけど・・・うーん。そうなのかな?」
「うん。あの射殺すような目線とか。いいよねゾクゾクする」
「は!?ゾ、ゾクゾク!?」


何てこと言い出すんですか幸村さん!?
初めて言われたわそんなこと!!!
っていうか、私そんな殺すような目線投げかけてたんですか・・・!?
やばい・・・今度から気をつけよう・・・


本気なのか冗談なのかわからない精市の発言に心底動揺する。

(・・・この人からかうの好きだよな・・・・・・・)

小学生相手に翻弄されてる自分が何だか情けなかった。







それから、一週間後。


『もしもし、精市か?』
『ああ弦一郎。どうしたの?』
『明日、伊織と試合するぞ』
『!・・・・・・例の女の子だね』
『うむ。面白い試合になるだろうから、お前も是非来い』
『うん。楽しみにしてるよ』




そんな電話が幸村家にかけられた。

―――――― 物語の歯車は、まだ動き出したばかり。





【終】



長いー!!!!!orz
なんかいつの間にかこんなに長くなっちゃったよwwwww
感想求む!!(●´∀`●)

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